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□絡まる視線と囁かれた言葉
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――なんで私、こんな所にいるんだろう。

疎外感と少しの嫉妬。
それが今の自分の心境といったところだろうか。


好きな人が他の女にベタベタされて、いい気がする人なんているのだろうか。
おそらく、いないと思う。少なくとも自分ならいい気はしない。現に今が、そうであるし。

ふぅ、とついた白い溜め息が、暫くして消えた。

周りは酷く騒がしい。
客も店員も、酒を飲み騒ぎあっている。
それもそのはず、今私がいるここは、多くの妖怪達の憩いの場なのだ。



―――遡ること1時間前

事の発端は、私の余計な一言だった。


「あ、リクオ様っ」
健全な中学生であれば、外出なんてしない――もしくはもう寝ているんじゃないだろうか――と思われる時間に、廊下でリクオとすれ違った。
今は、夜のお姿だった。

「よぉ、つらら」

――もしかして、また
「…お出掛けなさるつもりですか」

「あぁ」

ここ最近、朝でも昼でもリクオ様が眠たそうに、よく欠伸をしているのを見かける。
毎日のように夜の散歩だとかで出掛けていては、リクオ様の健康を損ねることになってしまう、と思った。

「…リクオ様」
「どうした?」

私が名前を呟くと不思議そうにリクオ様は首を傾げた。

「行っちゃ駄目です!」

唐突に私が声をあげたせいだろう、見るとリクオ様は、少し驚いた表情をしていた。

そんな顔したって駄目なものは駄目なんだから。

「何時だと思ってるんですか、もう寝る時間ですよ!」
「いいだろ、別に」
「よくないです!」

こんな夜遅くに。一体どこに行く宛があるというのだろう。

「あ!もしかして、前に家長を連れてったとかいうところに、行ったりしてるんですか?」

そこではお酒も飲んでいるみたいだし。もしそんな所に頻繁に通っているとしたら…と考えるとますますリクオ様の健康が心配になった。

お酒の事についても十分注意しようとした時だった。

「ふぅん」

音にすれば、にやりというような妖しげな笑みを浮かべたリクオ様と、目があった。

「つらら、お前も連れてってやるよ」

ぐい、と腕を掴まれた。

「え?」

「行きたいんだろ、俺が連れてってやる」

一人だけでリクオ様に連れていってもらった家長に、嫉妬の気持ちがなかったとは言いきれない、が、私が伝えたかったのは――

「えと、あのリクオ様、ちが…」

「行くぞ」

そのまま私は引きずられるようにして、ここ化猫屋へとやってきた。
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