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□あなただけを
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先ほどからずっとリクオに熱い視線を送り続けている人物が、一人。


「あぁ、リクオ様。」
うっとりと微笑みを浮かべ、
勉学に励んでおられる姿も素敵だわ、なんて言葉まで呟くしまつ。


しかし、それはぬら組では周知の事実であり、この光景を気に留めるような者はいない。
一部を除いては。



「おい」

彼女に反応はない。

「おい、雪ん子」

やはり、いっこうに気付かない。


自分はお前を見ているというのに、何故見向きもしないんだ、と
苛立った彼、牛頭丸はつららの肩に手を置こうとした―――


「今の雪女には何言っても無駄だと思うよ」

突然かけられた声に振り返ると、そこには首無の姿が。


「何か用があるんだったら、僕が聞こうか?」


「あ、いや……」

特に用事があったわけではない。ただなんとなく、アイツばかり見つめるこの女が、気に障っただけ
――こんなこと、言えるはずもないが。


「お茶煎れて貰うのたのもうとしてて」

言葉に詰まる牛頭丸に代わって、すかさず応えたのは馬頭丸だった。

「あぁ、そうか」

本家に来て間もないし茶の場所も分からなかったんだな、と一人解釈した首無。
二人分の茶を用意するため、台所へと消えて行った。


それを見送ったあと、何とも気まずい空気が二人の間を流れた。

暫しの沈黙。
それを破ったのは馬頭丸だった。

「牛頭丸…あのさ、」
「うるせぇ、戻るぞ」

そう言い部屋を出て行く牛頭丸。

足早に行く彼の後ろ姿と、未だリクオに視線を向け、おそらく今の出来事にも気付いていないであろう少女を一瞥し、ため息一つ。


それから彼も、部屋を後にした。





人はそれを、恋と呼ぶ
僕には見守ることしかできないけれど、

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