「リクオ様、失礼します〜」


 ガラ、と部屋の扉をあけて入ってきたのはつららだった。


「おやつ持って来ましたよ」


 ふと時計を見るとぴったり三時を示していた。彼女はこうしてよくお菓子持って来てくれる。


「ありがとう」
「今日はひなあられです。おばあちゃんに沢山もらっちゃって」


 そう言いながら彼女は机の上にひなあられとお茶を置いた。

 おばあちゃん・・・?もしかしてつららの?
 不思議に思って尋ねてみると、スーパーに買い物に行った帰りに、見知らぬおばあさんが荷物を持って階段を上っているのを見かけ、それを手伝った際にもらったのだという。

「お礼はいいって言ったんですけど・・・」
「そっか。いいことしたね」

 そう笑いかけると、照れた様子を隠すように彼女はひなあられを一つ手に取り口にした。

「リクオ様もどんどん食べてくださいね!」
「うん」

 雛祭りって今日か、とひなあられを手にしながら思う。雛祭りといえば、ふと思い出すことがあった。

「そういえばさ、昔、雛人形をずっと飾ってた時期なかった?」

 たしか僕が小学校低学年のころ、つららの部屋に長い間雛人形が飾ってあった気がする。
 雛人形って、早く片付けないと婚期が遅れるだとか、そんな言い伝えがなかっただろうか。

「あー、そんなこともありましたね」
「普通、逆なんじゃないの?」
「えーっと・・・。あのころ私、結婚したくない一心でずっと飾ってたんです」
「え?そうなんだ」
「・・・はい」


 話を聞くとつららは恋愛だとかそういうことに全く興味がなかったらしい。夏ごろまで飾り続けていたところ、さすがに周りに片付けろといわれたという。
 興味がないというだけでどうしてそこまでするのだろう、と疑問に思ったが、それを尋ねる前に、彼女の「そろそろ仕事に戻りますね」という言葉でこの話は打ち切りとなった。




******


『ねぇねぇ』
『はい!リクオ様』
『何でつららの部屋にはまだ雛人形が飾ってあるの?』
『それはですね、雛人形をずっと飾っていると、結婚するのが遅くなるって聞いたからです!』
『それって、いいことなの』
『そうですよ〜。だって私、結婚したくないんですもん』
『なんで?』
『これから先もずーっと、リクオ様のお側にいたいからです。だから、つららは結婚なんてしません!』




 あのころ、そんな宣言をした私は若かったなぁ、とつららはため息をつき家事へと向かった。



 遠くない未来、彼女の婚期を逃す努力が良い意味で無駄になったのはまた別のお話。
 




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