めいん2

□オバコウ
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海に面して、そびえ立つナギサタワーの、展望台。今日も、ジムの仕事をしないで改造ばかりしている友人に喝をいれてやろうと思ってここに来たのだが(彼は息詰まるとなぜかよくここにいるのだ)、意に反して、そこにいたのは友人ではなかった。
赤いハンチング帽とマフラーの、小さなお客人。

「コウキ?」

小さな呼びかけに、彼はぴくりと反応し、こちらを振り返った。

「あ、オーバさん」

デンジさんに会いに来たんですか?
にこやかに言うコウキに、デンジに関しては不発だったと告げて、隣に腰をおろした。

「……あのさ」
「はい?」
「顔、どうした?」
「……あー」

はぐらかすように視線を海に向けて、コウキは乾いた笑いを浮かべる。こいつは若くしてナナカマド博士の助手をつとめる、なかなか優秀なやつではあるが、そうはいってもまだまだ子供。危なっかしく感じることもよくあるのだ。
現に今だって、コウキの頬には大きなガーゼがべたりと張り付き、所々に擦り傷も目立っていた。

「えーっと…色違いの、コリンク、が」
「ひっかかれたのか」
「観察しようと思ったら、群れにいたルクシオを驚かせちゃって」

気をつけてはいたんですけどねぇ、と目を伏せるコウキは、たいそうがっかりしたように見えた。色違いのコリンク…たしか黄色だったっけな。あのあたりは特に警戒心も強いだろうし、近づくのはなかなか難しいかもしれない。

「それにしたってなあ…コウキ、お前バトルほんと出来ないんだから」
「それ、事実ですが、傷つきますね」
「あ、悪い。……だから、さ、まあそう毎回毎回生キズ作られるとなあ…ハラハラするからな」
「はあ」

でもお仕事ですので、と悪びれもせず笑うコウキ。わかっているのかいないのか、なんか、ほっとけないんだなあ、この子。

「好きか?」
「はい?」
「助手の仕事」
「はい」
「博士、心配すると思うけどな」
「あは…よく言われます」
「心配かけるのは、よくないな」
「………。善処します」

難しい。
頭で考える方が好きなイメージのあるコウキは、サボりジムリーダーのあいつに、少し似ているところがあるかもしれない。いや、あいつより遥かに真面目だが。

「コウキ、メモ帳持ってるか」
「ポケッチとかですか?」
「それ消えちゃうだろ、紙出せ紙」

コウキは明るい黄色のリュックサックを探って、ポケモンの観察に使っているらしい小さな手帳を取り出した。
なるほどそれには、他地方のポケモンの情報も事細かに書き込まれ、線が引いてあるだけのシンプルな手帳を真っ黒に染めていた。…一枚欲しいくらいだ。

裏返して、一番後ろのページの下の方に、借りたボールペンで数字を書き込む。あまりたくさんの人に教えたことはないのだけど、…彼は、特別だ。

「はい」
「?、番号ですか」
「オレの、ポケギア番号」
「!!、え、え、えぇ!?いいんですか!?」
「お前危なっかしいからなあ…。ああそれに、よくポケモンの健康状態も見てくれるし。だから」

ぽん、とハンチング帽を外して、コウキの頭に手を置く。短く切り揃えられた黒髪は、ぐしゃぐしゃ撫でるたびに小さく乱れた。

「あんまり小さいうちから、傷作んなよ。これ、いつでも電話していいから」

四天王って強すぎて、意外に暇なのさ。
にっ、と笑ってみせると、コウキは興奮したように、手帳をぎゅうっと抱きしめた。

「……じゃ、じゃあ、何かあった時…お願いします…」
「何かあった時じゃ遅いだろ…」



世話焼きの理由


(助手の仕事に興味あるとか)
(そんなの建前の理由かもね)




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いいお兄さんなオーバ
オバコウはいいぞ。



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