めいん2

□シンオウ組
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「ごめん、やっぱ無理。…保健室行ってくる」

そう言ってふらふらと階段を下りるパールの、真っ青な顔をまだ鮮明に覚えていた。



かっ、かっ、とリズミカルに響くチョークの音が、オイラの眠気を誘う。先生が黒板を向いているときは、だいたい窓の外を見ている。後ろから2番目に位置するオイラの席は窓際で、前の子に隠されて教卓からは見えづらい。
午前の授業も大詰めの4時間目。例に漏れず、今日も窓の外を眺めていると、校門のほうにふらふら歩いていく幼なじみが見える。あれ。
(帰るんだ)
先生の声をBGMに、歩いていくパールを見送って、オイラは前を向く。大丈夫かなあ。

板書をうつすノートの端に、小さく音をたてて飛び込む球体。どうやらノートを丸めたものらしい。手にとって注意深く広げると(先生に見つかると怖いのだ)、小さく丁寧な字で、『何が見えましたか?』と書かれていた。そっと顔を上げて見回すと、悪戯っぽく笑うお嬢さまと目が合った。手紙をまわすなんてこと、最近覚えたんだろうか。控えめに綴られたお嬢さまの文字の下に、また、自分の文字を刻む。

『パールが帰っていくのが見えたよ』
『風邪でしょうか?さっきも調子が悪そうでしたね』
『うん、だから帰りにお見舞い買ってこうと思う』
『良いですね!では今日は少し寄り道して帰りましょう』

書いて、丸めて、隣の子に回してもらう。その繰り返し。お嬢さまは新鮮な遊びが気に入ったみたいで、楽しそうに言葉を綴ってくれた。オイラも嬉しかったけど、見慣れた急くような文字が無いのが少し、寂しい気がした。

『病気なら消化に良いものがいいよね。何にしようか』
『今日食べるのは無理かもしれませんけど、プリンやゼリーなんてどうでしょう?』

ああいいかも、美味しそう。そう思ったとき、終業のチャイムが響いた。お昼休みだ。
あいさつをして席を立ち、一人分少ないお弁当をもってお嬢さまの方へ。今日はふたりだなあ。

「寒くなってきたから、屋上はやめようか?」
「そうですね、では今日は部室で食べましょう」

お嬢さまは笑ったけど、一人分少ないお弁当を見てすこし寂しそうだった。ああ、同じだ。

「お嬢さま」
「なんでしょう」
「プリンどこで買おっか」
「私、お気に入りのお菓子屋さんがあるんです」
「ほんと?じゃあそこにしよ!」

オイラもプリン食べたいなあ、と言うと、わたしもです、とお嬢さまも笑ってくれた。





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