めいん2

□性転換シンオウ組
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※性転換


静かなロッジの朝に、ばたばたと元気な足音が響く。隣の部屋にいるふたりのものだろうかと、意識だけ浮上させた頭で考える。暖かい布団からはまだ出たくない。目はまだ閉じたまま、手探りで枕元の図鑑をさがしあてる。北国の朝の冷気にあてられた図鑑は予想以上につめたくて、思わず手を引っ込めた。
ばたばたという足音が近くなり、部屋のドアの前で止まる。

「お坊ちゃま、お坊ちゃま!雪が積もったよ〜!」

少し間延びしたまるいこの声は、きっとダイヤモンドだろうなと、目をとじたまま考える。雪なんてシンオウじゃ珍しくないのに、ドア越しの彼女は至極楽しそうに「はやく来てね!」と僕を呼んだ。
いつもはのんびりとした彼女が、急くようにドア前の階段を降りていく。音がする。
ダイヤ静かに、と、今度は高めの声が聞こえる。これはきっと、先ほど階段を降りていった彼女の相方。パールだ。
パールはダイヤモンドとは対照的にとてもせっかちな女の子で、なにかとダイヤモンドの世話をやいている。
彼女はそろそろと僕の部屋の前まで来て、小さくドアをノックした。まだ寝ていると思ったのか、今度は少し強めにノックして「はやく起きて」と言った。

「下に行ってるからね!」

これまた楽しそうに、パールは言った。彼女もダイヤモンドとおなじ、浮かれたようなあしどりで階段を降りていく。
僕はもぞもぞと布団から這い出して、カーテンをあけた。




ロッジを出ると、そこは真っ白な世界。吐き出す息が白いけど、この景色の前ではあまり目立たない。ひゅうと吹いた北風に身震いして、もう少し厚着して来ればよかったと後悔した。
ギャロップにピッタリと寄り添いながら歩いていくと、真っ白な世界で楽しそうに跳ね回る二人が見える。元気だ。

「あっ、お坊ちゃま〜!」
「遅いよ坊ちゃん!」
「…すいません」

三人揃うと鳴り出す朝の音は、静かに雪に吸い込まれた。きゃっきゃと騒ぐふたりがまぶしくて目を細める。朝の日差しのせいか。再び吹いた北風に、今度はたまらずくしゃみをした。

「!、お坊ちゃま大丈夫?」
「…平気」
「もっと着てくればよかったね、坊ちゃん」
「なんか寒そう…わたしのマフラー貸してあげる〜」
「え!?」

そう言ってなんの躊躇いもなくマフラーを外しはじめるダイヤモンドを、慌てて制す。

「大丈夫、大丈夫ですから」
「え〜、でも風邪引いたら大変だし…」
「ダイヤモンド、女の子は身体を冷やしてはいけないのですよ」
「男の子は皮下脂肪が少ないから寒がりって聞いたけど…」

小さく呟いたパールに、ダイヤモンドが強く頷く。もしかして気を遣ってくれたのだろうか。
しかし、彼女らだって僕と相違ないくらいの薄着だと思う、さらにダイヤモンドはマフラーを外しかけているし。いくら寒くないからといっても、これでは身体を壊してしまうではないか。

「でも」
「いいから、いいから!ほらっ!」
「わ、ぷっ」

赤いマフラーが首を隠す。直前まで巻かれていたせいか暖かく、さっきより寒くなくなった。

「あったかい?」
「…はい」
「じゃあ雪合戦しよ!」
「ゆきがっせん?」
「雪積もったからね〜、お坊ちゃまも一緒にどうかなって、さっきパールと話してたの」
「雪をかためて投げる遊び!坊ちゃん、知らない?」
「…知らなかった、です」

そっかそっか、じゃあはやくこっち!そういって僕を引っ張るふたりに、笑みがこぼれた。だいじな護衛で、だから、守りたいとおもう。僕はまだ守られてばかりだけど、いつか。そして、どうか。

「こうやって雪玉をぶつける遊びだよ〜!」
「いくよー!」

きいろく響くふたりの声が、ずっと僕のそばにありますように。




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