めいん2

□ピーターパン
1ページ/1ページ

.


ひとりが怖くなったのはいつからだっけ。ずっと一緒だったふたりと離れて旅したあの日からだっけ。それとも、もっと昔から、ひとりは嫌いだったのかな。

ふ、と目をあけると、部屋はまだ真っ暗だった。夢は見なかった。手をのばして探し当てたポケッチのライトをつけると、時刻はやはり真夜中。暗いわけだなあと思いながら、またベッドに潜ると、布団のなかは少し冷えていた。

「パール」

うるさいくらい音がしない部屋で、隣のベッドに寝ているはずの彼を呼ぶ。急に発した声はかすれていて、ほんとうに小さかった。彼はなにも言わなかった。代わりに穏やかな寝息が、小さくきこえる。寝ちゃってるんだなあ、あたりまえだけど。

だんだんと目が慣れてくると、暗かった部屋が明るく思えてくる。そういえば今日は月も明るい…かもしれない。しばらくベッドの上で寝返りをうってみても、もう一度意識をなくしてくれる材料にはならなかった。ごろん、と、眠っている彼のほうに体を向けて、規則的に上下する掛け布団を眺める。

お嬢さまが所有しているらしい高級ホテルの、沈み込むようなやわらかいベッド。
とても寝心地がいいし、気持ちがよくて大好きなのだけれど、まだ子どもである自分にはちょっと、大きすぎる気がして。

体温が移った布団をがばりと退けて、ふかふかの絨毯に足をつける。広くて暗い室内を横切って、相方のベッドに近づく。すぐ隣なんだけど。
パールはこちらに背をむけて、穏やかに眠っている、ように見えた。少し跳ねた金髪が、無性に懐かしく感じて、ちょっとだけわらった。

掛け布団を少し持ち上げて、からだを滑り込ませる。彼の体温がしみこんだベッドはあたたかで、オイラをふんわりとうけいれてくれた。もぞもぞとベッドを這って、布団に顔を埋める。小さくかおる、彼のにおい。

たったそれだけなのに、ふわふわとした安堵感、そして同時に、待ち望んだ眠気がオイラをおそった。いらっしゃい。
眠るパールの背中にさっきよりもっと近づいて、パジャマの裾をつまんでみる。いつも見ていた背中がやたら大きく感じて、彼もきっとこの旅を経て、たくさんの成長をしたんだろうと感じた。背ももっと離されてしまったろうか、……ねむくなってきた。

好きだったらそれでいいんだろうか、オイラはまだ子どもだから、このあたたかさが恋しいんだ。だから。




(まだ、一緒にいてもいいよね)





.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ