めいん2

□パルダイ
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「好きな子、できたんだー……」

あっさりと、しかし呟くように、ほお杖をついて、パールは言った。
開かれたネタ帳は、始めの一行のみが埋められたまま、あとは真っ白。とん、とん、と、大きすぎる余白にシャープペンシルを打ち付ける音がやけに響く。何かしていないと落ち着かない、せっかちなパールの癖だ。

「……ふーん?」

なんでそんなこと、オイラに言うんだろ?あ、友達だからかな。もしかして、オイラも知ってる人だったりして。

「だれだれ?お嬢さま?」
「ちがう」
「えー……じゃあだれ?」

ぜったいお嬢さまだと思ったのになあ。意外な返答にびっくりしていると、パールは突いていたシャープペンシルから顔を上げて、オイラを見た。半ば睨まれるような強い視線に、少したじろぐ。

「わかんないの?」

ぼそぼそ呟くようだったパールの言葉が、突然はっきりと強張る。え、と吐き出すような返答しか出来ず、ひたすらに考えた。だれだろ、だれだろ。オイラあたま悪いからなあ…。

「えーと、うーと……わかんない」
「……だよなあ」
「で、で?だれ?」
「教えてやんない」
「え〜?」

その日はそれだけで、その話はおしまい。あとはずっと漫才の練習をして別れたのだけれど、ずっと、それから、パールの強い視線が頭から離れなくなっていた。パールの気持ちをあんなに独占できる人。お嬢さま以外に?わからないなあ……うーん。
考えて考えて、そうやってずっとパールのことを思っていたから、なのかもしれない。ずっといっしょにいたパールが、もしかして好きになったその子といっしょになったら、オイラはどうしたら、なんてふと考えて、慌てて思考を追い払う。やめやめ。
たとえそうなったって、パールはオイラと友達だし。今までとだって、きっと変わらないし、だから……。あ、あれ……。

(友達じゃ、嫌なのかな)

そんなはずは。

「……ヤ、おいダイヤ、」
「!、え」

はっと我に返って、裏返るような返事をしたのも束の間。ごちん!という鈍い音がして、思わずずるずるとその場に座り込んでしまった。

「いたたたた」
「電柱あるよって言おうとしたんだけど……大丈夫か?」
「結構……勢いよくぶつけた」
「どれ……うっわーたんこぶできてる」

今日はいつもよりぼうっとしてないか?
パールもいっしょに座り込んで、オイラのおでこを擦りながら笑った。ぼうっと…してるかも。冬の空気で冷えた彼の手が気持ちよくて、自分がどこか遠くにいるみたいな、不思議な気分。

「あのねパール、オイラ気付いたことがあるんだ」

気付けば、勝手に口から滑り出ることば。今朝から、ううん。あの日、パールと別れてから、ずっと考えてたこと。

「パールさ、好きな子できたって言ってたでしょ」
「……うん」
「オイラね、多分……それがすごく、こわい」

するすると額を滑る手が、ぴたりと止まった。パールの目を見る勇気がなくて、視線は斜めに漂わせたまま、ぽつぽつと呟く。パールは、何も言わなかった。

「多分ね、取られたくないのかもしれない。変だよね、パールはそんなんじゃないって知ってるのにね」
「……ダイヤ、あのさ」
「ん?」

視線を戻すと、あの日みたいに強い目をした彼がみえる。ほっぺを冷たい手で包まれ、ひやりとした感触に頭が冷えた気がした。あれれ。

「好きな子、もし、お前だって言ったら」

だんだんと赤くなっていく君の頬は、夕日のせいなの?それとも、オイラのほっぺの温度がうつったからなのかな。

「お前、どうする?」






君色サンセット


(春が来るまでまわりみち)





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26000打キリリクのパルダイです!リクエストしてくださった氷空さんに捧げます。
リクエストに添えられているか心配ですが…!!
にぶちんなダイヤは書いてて楽しいというか…もっとぐるぐるさせたくなりました←

氷空さん素敵なリクエストありがとうございました!*^^*




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