めいん2
□恋というのは
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寝る子は育つ、とはよく聞くが、これに関してはどうだろう。オレの相方はよく食べるほうだが、加えてよく眠る。育つ条件を満たしてはいるはずなのに、まだまだオレよりは小さくて。いや、それでも抜かれないオレの身長がすごいのか…はたまた。
そんな相方は、今オレの目の前で夢の世界へと旅立っている。緩やかに上下する腹部を眺めながら、そう、彼はまだオレより小さいんだ、なんてぼんやり考えて。
はっとして視線を逸らした。
違うんだ、今オレはお昼寝中の相方を眺めている場合じゃなくって。
手に持ったノートに目を落とす。思った通り……全く進んでいなかった。まだ十二分に余白の残るページにため息をつきながら、シャープペンシルをノックする。旅に出て漫才大会に出場する機会がないからといって、ネタ作りを怠ってよい理由にはならない……今のうちにでも練っておかなくちゃ。
「……」
ネタを。なにか…ネタ…。
「………」
……だめだ。なんにも浮かばない。
諦めるのが早過ぎるような気がしないでもないが、浮かばないものはしょうがない。しょうがないのだ。そういう時は、無理に考えないに限る。
ぱたん、とノートを閉じると、よろよろと立ち上がる。いつもなら、気分転換にダイヤに抱き着いてみたり、彼が見ているアニメを何となしに見たりするのだが、肝心の彼は昼寝しちゃってるしなあ……はっきり言って、することがないし。
お嬢さんとバトルでもしようかなぁ……。
「………。」
なんとなく。
なんとなく思いついて、そろそろとダイヤのベッドに近づく。本当に好奇心だけで、やましいことなんてなくて。……いや、少しは、あったかもしれない。
眠っているダイヤの上に、かぶさってみる。頭の横に手をついて、言うなれば、オレがダイヤを押し倒しているような、状態。
「……おおー」
やっぱり、普通に見てるのと上から見るのじゃあ、景色が違う。規則正しい寝息をたてるダイヤの、マフラーが外された、首。いつも布で覆われてるからわからないけど、意外と白い、かも。
(…ちょっとだけなら)
静かにすれば、ばれずに済むかなって、その時は思ってた。でも待てよ、と思い留まる。
首に噛み付くのは、やっぱりばれると思う。
一瞬の逡巡の後、薄く開いた唇に視線がたどりつく。寝込みを襲うみたいで、ちょっとだけ後ろめたいけど。
(一瞬、一瞬だけっ)
だれにともわからない言い訳を心の中でしながら、ゆっくりと顔を近づけていく。もうちょっと、と、その時。
「…んー…」
「!」
「……ん…?」
ぼんやりと開いた彼の瞳と、視線が合った。
「……!!」
「パール…?なにしてんの…」
「……あ、いや、…えっと…その」
もごもごとどもりながら、オレは必死に言い訳を考えていた。今度はダイヤに対して、だ。
冷や汗がたらたらと背中を伝うのを感じながら、うまくはたらかない頭を回転させる。でもこれ、説明しようがなくないか?どんな事情があったって、幼なじみの、しかも男が、自分を組み敷いていた状況って。そんな状況に納得がいく説明って!
しかしダイヤは、焦るオレを不思議そうに眺めてから、隣のベットを指差した。
「パールのベット、あっちだよ…」
「…はい?」
「じゃ、おやすみ…」
そう呟くやいなや、早々と二度目の夢の世界へ旅立つ相方。どうやら寝ぼけていただけのよう、な…?
「……まじかよ…」
完全に肩透かしを食らったオレは思わず呟き、しばらくその場から動くことが出来ずにいた。
(きづかれたい)
(ばれたくない)
(総じて、矛盾)
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