めいん2

□恋というのは
1ページ/1ページ

.


寝る子は育つ、とはよく聞くが、これに関してはどうだろう。オレの相方はよく食べるほうだが、加えてよく眠る。育つ条件を満たしてはいるはずなのに、まだまだオレよりは小さくて。いや、それでも抜かれないオレの身長がすごいのか…はたまた。

そんな相方は、今オレの目の前で夢の世界へと旅立っている。緩やかに上下する腹部を眺めながら、そう、彼はまだオレより小さいんだ、なんてぼんやり考えて。
はっとして視線を逸らした。
違うんだ、今オレはお昼寝中の相方を眺めている場合じゃなくって。

手に持ったノートに目を落とす。思った通り……全く進んでいなかった。まだ十二分に余白の残るページにため息をつきながら、シャープペンシルをノックする。旅に出て漫才大会に出場する機会がないからといって、ネタ作りを怠ってよい理由にはならない……今のうちにでも練っておかなくちゃ。

「……」

ネタを。なにか…ネタ…。

「………」

……だめだ。なんにも浮かばない。
諦めるのが早過ぎるような気がしないでもないが、浮かばないものはしょうがない。しょうがないのだ。そういう時は、無理に考えないに限る。

ぱたん、とノートを閉じると、よろよろと立ち上がる。いつもなら、気分転換にダイヤに抱き着いてみたり、彼が見ているアニメを何となしに見たりするのだが、肝心の彼は昼寝しちゃってるしなあ……はっきり言って、することがないし。
お嬢さんとバトルでもしようかなぁ……。

「………。」

なんとなく。
なんとなく思いついて、そろそろとダイヤのベッドに近づく。本当に好奇心だけで、やましいことなんてなくて。……いや、少しは、あったかもしれない。

眠っているダイヤの上に、かぶさってみる。頭の横に手をついて、言うなれば、オレがダイヤを押し倒しているような、状態。

「……おおー」

やっぱり、普通に見てるのと上から見るのじゃあ、景色が違う。規則正しい寝息をたてるダイヤの、マフラーが外された、首。いつも布で覆われてるからわからないけど、意外と白い、かも。

(…ちょっとだけなら)

静かにすれば、ばれずに済むかなって、その時は思ってた。でも待てよ、と思い留まる。
首に噛み付くのは、やっぱりばれると思う。
一瞬の逡巡の後、薄く開いた唇に視線がたどりつく。寝込みを襲うみたいで、ちょっとだけ後ろめたいけど。

(一瞬、一瞬だけっ)

だれにともわからない言い訳を心の中でしながら、ゆっくりと顔を近づけていく。もうちょっと、と、その時。

「…んー…」
「!」
「……ん…?」


ぼんやりと開いた彼の瞳と、視線が合った。


「……!!」
「パール…?なにしてんの…」
「……あ、いや、…えっと…その」

もごもごとどもりながら、オレは必死に言い訳を考えていた。今度はダイヤに対して、だ。
冷や汗がたらたらと背中を伝うのを感じながら、うまくはたらかない頭を回転させる。でもこれ、説明しようがなくないか?どんな事情があったって、幼なじみの、しかも男が、自分を組み敷いていた状況って。そんな状況に納得がいく説明って!

しかしダイヤは、焦るオレを不思議そうに眺めてから、隣のベットを指差した。

「パールのベット、あっちだよ…」
「…はい?」
「じゃ、おやすみ…」

そう呟くやいなや、早々と二度目の夢の世界へ旅立つ相方。どうやら寝ぼけていただけのよう、な…?

「……まじかよ…」

完全に肩透かしを食らったオレは思わず呟き、しばらくその場から動くことが出来ずにいた。




(きづかれたい)
(ばれたくない)
(総じて、矛盾)




.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ