めいん

□あおぞら、バイバイ
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起立、礼、ありがとうございました。の合図で学校を飛び出す。他の何にも目をくれず、市の中央病院へと猛ダッシュ。真っ白くて四角い建物は、いつも無機質な表情しか見せてはくれないが、オレは構わず、その入り口へと吸い込まれるように飛び込んだ。

「パール」
「……!お嬢さん」

病院のロビーでオレを迎えてくれたのは、同じく彼の見舞いに来たであろう、親友の少女だった。面会は先に終えたらしい。お嬢さんは、荒い呼吸を肩を上下させて整えるオレを見ながら、あまり病院でうるさくしてはいけませんよと微笑んだ。

「容態は?」
「問題ありません。落ち着いています」
「そっか」

お嬢さんはオレたちとは違う、市のお嬢様学校に通っている。オレがホームルーム直後に走ってここまで来たのに、先に面会を終わらせていたとなれば、そういうことなんだろう。
かんかん、と非常階段を6つ上がる。毎度毎度、エレベーターで来ればいいのに、とはいつかのあいつの言葉だ。オレは運動部だから問題無いんだよ、と返した気がする。それを聞いてあいつは、じゃあいっか、と楽しそうに笑ったっけ。

「ダイヤ!」

がらり。と扉を開けてあいつを呼ぶ。大事な大事なオレの相方。その声にダイヤはびくりと体を震わせて、恨めしそうにこちらを見た。

「……パール、相部屋の人に迷惑!」
「あ…ごめんごめん、つい嬉しくって」
「も〜……あ、すみません〜」

ダイヤが周りのベッドの人たちに頭を下げると、その人たちは笑って、元気で良いねと 言ってくれたのだった。
ダイヤのベッドは病室の一番奥の、窓際だった。大きな窓からは、オレたちの学校もよく見える。ひょこりと下を覗くと、車椅子の患者さんを散歩させている看護士と、黄色い銀杏の木が目に入った。

「もう寒くなるね、パール風邪引いたらだめだよ」
「あー……うん」

ベッドから響く相方の声に、振り返って生返事をする。相方の足に嵌められた大きなギプスは、まだダイヤが病院から出られないという現実を物語っていた。薄い水色の病院着から覗く真っ白な包帯に、ずきんと胸が、痛んだ気がした。

「あ、そうだ、こいつ」
「え、なに?」

ショルダーバッグの中に手を突っ込み、乱雑に掻き回す。本当ならこんな乱暴は感心しないが、今は生憎、時間が限られているのだから仕方ない。
教科書と筆箱を押し退けると、見つけた、小さくなったモンスターボール。スイッチを一回押して大きくし、ダイヤに手渡す。あれ、病院内でポケモンを出すことは許されていたっけ?不安だから出さないでおこうか。

「あ、こないだのタテトプス〜?」
「ああ。謝りたいんだってよ」
「え、あれは事故だったから別にいいんだけどね〜」

平気だよ、とダイヤはボールの中のタテトプスに笑いかける。ふと窓の外に目をやると、日が傾き始めていて、そろそろ青が橙に変わる頃だった。

「パール」
「ん?……何?」
「次いつ漫才、出来るかなぁ」

タテトプスの入ったボールを手のひらで転がしながら、ダイヤが呟く。点滴の袋がオレンジ色に染まって、なんだか綺麗だ。たいよう、バイバイ。

「……さあ。お前次第だよ」

驚いたように此方を見る蒼色に、オレはにんまり、わらった。だから、早く治せよな。言うと、ダイヤもほんのり、笑顔になって、うんと頷いた。
市内放送のスピーカーから、五時を告げる鐘が鳴る。ああ、もう帰らなきゃ。あんまりここに居ると、看護士さんに怒られてしまう。

「ダイヤ、またな」
「うん、じゃあねパール」

タテトプスの入ったボールを受け取り、再びショルダーバッグへしまう。ダイヤは名残惜しそうに手を振って、頑張るね、と呟いた。オレはああ、と返事をして、病室の入り口へと歩みを進めた。
去り際に振り返って、大きな窓と、その隣の点滴の袋を見る。オレンジ色のそれは一定のリズムで滴を落とし続けて、下へ管を辿ると、それを腕に繋げた相方が見える。

やっぱり、少し痩せたな。
そんな気がした。









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やっちまった、
としか言いようがない




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