めいん

□ゆうぐれふたりのり
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坂道を下る自転車のスピードにやや恐れを抱きながら、ブレーキを握ることも無く向かい風に制服をはためかせる。肩に置かれた手の温もりを感じながらも、頬に感じる風はまだ冷たい。自転車の後ろに乗る相方は、オレと色違いの赤いマフラーをなびかせて、すごいスピードで流れる景色を見ているようだった。

「あ〜!」
「んー?」

突然上がる大きな声。少々間延びしたそれは赤いマフラーの相方のものだった。気にはなったが後ろを振り向くわけにもいかず、軽く返事をすることで続きを促した。

「夕焼け、きれい」
「あー…」

ぽつりと呟かれた言葉は、びゅうびゅうと耳をきる風のなかでもやけに綺麗に響いた。夕焼けか、もうそんな時間だっけ?前まではそんなに早く日が沈むことなんてなかったのに。もうすぐ冬が来るんだ、とぼんやり考えて、相方の言葉に軽く相槌をうった。
白いガードレールに守られたアスファルトの道は、沈みゆくオレンジを受けて輝き、いつの日か歩きたいと願うレッドカーペットを思わせる。いや自転車でレッドカーペットは歩けないだろうに、と、即座に自分の思考に突っ込みを入れる。ノリツッコミとは違う技術だ。
いつもの風景、いつもの帰り道。相方と2ケツ。いつもの下校方法だった。チェーンが回る音しか響かない空間に、突如歌声が降る。これも、いつものこと。鼻歌の伴奏から入って、雄々しい歌詞が熱いメロディーに乗ってダイヤの口から流れてくる。後ろの相方は、大好きなロボットアニメを、家に帰ってから見るのを楽しみにしているのだ。

「たうりなー、おめっがー」
「まだタウリナーかよ」
「まだだよ、でももうすぐデモニッシュと最後の決戦なの」
「ふーん」

オレは見ていないのでよく知らない。ついでに面白みもわからない。なぜにロボットアニメなのか、日曜朝8時で、しかも対象年齢はきっとずっと低い。わかりやすくいうと子供向け番組だ。相方はそんなアニメのために、オレの誘いを断る事さえあった。解せぬ。
でも、テレビに向かってきらきらと目を輝かせる相方を見ているのは、そんなに嫌いではなかった。子供っぽいとは思ったが。ダイヤはオレの疑問に答えると、また続きを歌いだす。タウリナーΩのオープニング、その次にエンディング、それからブロムヘキサーΣのオープニング。帰り道の時間でいつも歌うものだから、オレも遂にフルで覚えてしまった。末期症状だ。タウリナーがデモニッシュ(だったっけ?)を倒すのなら、また次に新しい番組が始まって、また帰り道で歌う曲が増えるんだろうと、下り坂でペダルを漕ぐこともなくぼんやり思った。

「タウリナー終わったら、何がやるの」
「わかんな〜い」
「おまっ」
「たおせ〜デモニッシュデモニッシュ」
「そこはたおせ〜デモニッシュだろ」
「なにが違うんだよ〜」
「音外してんの」
「見てないくせに〜」

後ろで響く笑い声に、歌うならちゃんと歌えよ、と軽く言い放つ。相方は後ろでうん、と返事をすると、今度はよく聞くテレビコマーシャルの曲を口ずさみはじめた。
いつものかえりみち。相方の笑い声と歌う声。そして、こういう時間も悪くないと、そう思っている自分に気づいて、オレもなんだか笑ってしまった。






ゆうぐれふたりのり

(少しはずした歌も)
(いとおしくって)







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