めいん

□4月1日
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「ダイヤ、あのさあ」
「ん〜?なあに?」
「コンビ、解散しよ」
「………え」

呟かれた言葉に、読んでいた雑誌からがばりと顔をあげた。視界に入った相方は、やけに思い詰めたように、深刻な顔でこちらを見ている。その瞳に、どうしようもなく怖くなって恐る恐る声をかけた。

「……解散?、なんで?」
「なんでも。将来のこと考えた結果だよ」
「将来って、パール……」

なんなの、と、縋るような目で追うと、パールは逃げるようにオイラから視線を逸らした。いきなりそんなこと言われたって、はいそうですかって納得するわけないよ。あんなにお笑いに執着していたパールなのに、なんで解散だなんて言うの。

「このまま売れない漫才師続ける気か?」
「……だからって、やめちゃうの?」
「もう潮時なんだよ、オレ達頑張ってきたけど」
「………じゃあ、さあ」

オイラたち、もうお終い?
雑誌をぱたんと閉じてパールをみる。パールは顔を伏せて、オイラとは目を合わせない。その態度にまた悲しくなって、オイラもパールと同じように俯いた。そりゃあ今だって売れてないし、これからブレイクする予定も保障もないけど、それにしたってオイラはパールとずっとコンビ組んでたいって思ったわけで。もしかしてパール、ほかにコンビ組みたい人出来たのかなあ。あ、視界が滲んできた。
ぎゅっと拳を握って沈黙に耐えていると、パールがオイラの額をぺしりと叩いて、言った。


「……なんちゃって!!ドッキリ大成功!!」

「……………え?」


響いた声に、伏せていた頭を起こすと、してやったりといった顔でこちらを見ている相方と目があった。彼が放った言葉を二度三度、頭の中で繰り返す。え、……え?

「……ドッキリ?」
「引っかかったろ?引っかかったよな?コンビ解散するわけないじゃんよー」

満面の笑みでバシバシと肩を叩いてくるパールに、オイラはなんにも言えずにただ呆然とされるがままになっていた。悪戯が決まったパールは、よほど嬉しいのだろう、ドッキリ大成功の看板まで出している。手作りっぽい。

「こういうのにも耐性つけとかなきゃだめだぞ、いつ仕掛けられるかわからないからな!」
「……」
「?、ダイヤ?」

ドッキリ。じゃあ、嘘かぁ、なんだ。ほっとしたと同時に力がぬけて、零すまいと頑張っていた雫はせきをきったように溢れ出した。あー、オイラってやっぱりなきむしなのかなあ。ぼろぼろと涙を流すオイラにパールはぎょっとして、恐る恐るといった様子で手をこちらにのばしてきた。

「おッ!?おい、なに泣いてんだよー……」
「だって、解散するとか、……言うから」

パールは椅子から立ち上がってオイラのすぐ前まで来ると、親指で少し乱暴に涙を拭った。嘘だよ、ごめんな、と言って、今度はぎゅっと抱きしめてくれた。オイラこそごめんね、怖かったんだ、もしかしたらほんとうにお別れになるかもしれないって思ったら。

「大丈夫だから」
「うん」
「でも、ドッキリってこういうやつだからな」
「うん」
「なあ、ダイヤ」
「なあに?」
「………なんでもない」

パールは所在なさげにそう言って、オイラの頬を両手で包む。何となく、何となくそう思って、ふっと目を閉じると間もなく優しいくちづけがおりてくるのだった。



(一緒にいるよ)











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エイプリルフール









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