めいん

□コウキと博士
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ぱかり、と紅茶の缶を開けて、お茶の葉を確認します。まだ買いに行く必要はなさそうです。ずずいっとスプーンを突っ込むと乾いた葉がざくりと音をたて、あまい香りがするすると漂ってきました。それにほんのり顔を綻ばせてからお湯を沸かそうとやかんを手にとり、あ、と思わず僕はその場で固まりました。
僕の敬愛する博士は甘党なほうでして、お砂糖をいつもたっぷりと入れて紅茶を飲まれます。ミルクティーにしたほうが美味しく飲めるでしょうか?いつもストレートで出しているからお砂糖が要るのかもしれません。
そう思い立って、愛用の黄色いリュックサックからモーモーミルクを取り出しました。カフェやまごやに売っている、栄養満点のモーモーミルクです。勝負のあとはごっくんしてください。

片手鍋にモーモーミルクを入れて火にかけます。ふわふわのぼる湯気を見ながら、僕はレポート提出の期限はいつだったっけと考えを巡らせました。真っ白なミルクはそのまま飲んでも美味しそうでした。黒々とした紅茶の葉っぱを入れると、何が溶け出しているのかみるみる綺麗なバニラ色になります。濾過してティーポットに注ぎいれると、いつもの甘めの紅茶の香りが、少し柔らかくなって鼻腔をくすぐりました。お茶請けは何がいいでしょうか、スコーンでも焼けばよかったかもしれません。

「博士、お茶が入りましたよ。ちょっと休憩しませんか?」
「…………」
「はーかーせー」

もう一度呼びかけますと博士は我に返ったように振り向かれ、ああコウキか、と笑ってくださいました。

「お茶にしましょう」
「うむ」

博士は仕事机から腰をあげて、手近なソファに掛けられました。僕が紅茶を出しますと、博士はありがとうと言って受けとってくださいました。お茶請けがなにもないのは、やはり心苦しいものだと僕は思いました。多少無理をしてでも、何か作るべきであったと、僕はとても後悔しました。

「おや」
「どうかしましたか?」
「今日はミルクティーにしたのか?」
「え、ええと、はい。ミルクティーというか、茶葉をミルクで煮出しただけですが」

ミルクティーの作り方が分からなかったのです、すみません。僕が謝ると、博士は笑って、いやいやとても美味しい、と言ってくださいました。

「ほんとうですか」
「うむ。私は好きだ、また煎れてくれないか」
「はい、もちろんです博士」

僕も笑って答えました。博士はお優しい方だと、僕はいつも思うのです。温かなミルクティーと博士のお言葉は、僕をぽかぽかと暖めてくれました。




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助手コウキくんは博士のことを
とても尊敬しています。







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