めいん

□レッドさんとダイヤくん
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学パロ


わざわざごめんなさい。そう謝罪する後輩を、いいからいいからと笑って制して、よいしょとおぶりなおす。二人分のスクールバッグが揺れて、ばふんとぶつかった。

「あの、…ありがとうございます」
「いいって、やっぱり歩けないだろ、その足じゃあ」
「……はい〜」

後輩は観念したように返事をして、オレの背にもたれ掛かった。真っ赤に腫れた足首を刺激しないように、なるべくゆっくり、寮まで帰る。
部活が終わって一日が終わって。今日もお疲れ様、寮までランニングして帰ろうかな、なんて思ったのが確か30分前。そして、校門を出てすぐの場所で、うずくまるこの後輩を見つけたのが、多分28分前。どうして足首を捻ったのか知らないが、怪我人を放っておくわけにはいかない。とりあえず冷却スプレーと湿布で応急処置をして、包帯を巻いておいた。
そのまま、背中に柔らかな温もりを感じながら、ゆるゆる帰路につく。夕日はもうとうに沈んで、べったりとした藍色が空を覆っていた。

「すっかり遅くなっちゃったなー」
「すいません、レッドさん疲れてるのに」
「へいき、へーき。オレ寮まで走って帰ろうか考えてたところだったから」
「そうなんですか〜」
「そうそう。ダイヤおぶって帰るのも、いいトレーニングになるだろ?」

からからと笑うと、ダイヤも安心したのか、えへへと笑い声が後ろから聞こえてきた。かわいいやつめ。寮までの道中に建つ民家から、夕餉の匂いがするするただよう。そういえばお腹すいた、この家は唐揚げ?揚げ物の香ばしい匂い。

「レッドさんて、お兄ちゃんみたいですよね」

唐揚げに思いを馳せていると、背中から声があがる。オレの背にもたれた後輩は、振り返っても顔は見えなかったが、なんだか嬉しそうに笑っているような気がした。

「お兄ちゃん」
「はい、あ、兄弟は居ないんですけど。居たらこんな感じかなぁって……」

唐揚げを通り抜けたら、次はお味噌汁の控えめな香り。微かに焼き魚も混ざっている気がする。和食か、いいねいいね。
二人で帰っているのに、響く足音は一人分だけ。鞄がぶつかる音がばすばすと聞こえて、お兄ちゃんか、とさらに考えを飛躍させる。新鮮な呼ばれ方だ。

「オレもさぁ、兄弟いないんだよね」
「……」
「ずっとひとり。ニョロがいたけどさ。あとは近所の子、とか。うん」
「……」
「ダイヤみたいな弟だったらさぁ、オレも欲しいかも。なんてね」
「……」
「まぁ、後輩たちみんな、兄弟とか姉妹みたいなもんだけどさ。……ダイヤ?」

ぱったりと相槌すらうってこなくなった背中の住民に、軽く声をかける。すると、響くオレ一人の足音に混じって、規則正しい呼吸音が聞こえてきた。

「寝ちゃったのか」

なんだかほっこりとした気分になって、自然と口角が上がる。ふと前方を見ると、見慣れた景色と学生寮がでんと見えてきた。今日の夕飯何だろうな。背中にもたれて夢を見る後輩にそっと話し掛け、寮へと足を進めた。











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