めいん
□ブル
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朝。
五月蝿い電子音に眉をひそめて、腕を延ばす。音の根源らしき辺りを、布団から出した腕だけで叩いても、目的のものには触れられない。
うるさいなぁ、もう。私、まだ寝ていたいのよ。いいでしょ、早起きしたってグリーンに会えるわけじゃあないし。グリーンに…。
グリーン?
「………!!」
瞬間、覚醒。ガバッと布団を跳ね退けて、目覚まし時計を止める。時間を見てびっくり。
「うわぁああ、嘘、もうこんな時間!?」
早く起きればよかった!!後悔したって時間は戻らないのだ。私は急いで階段を下ると、トースターに食パンを放り込む。朝ごはん食べるのは大事なことよ。続いて洗面所へ走り、アイロンのスイッチを入れる。ふと鏡を見て驚いた。ひどい寝癖だ。
ちん、と軽い音が響いて、香ばしい香りに包まれる。うわぁ、ちょっと焦げてる…。トースターを開けてパンを取り出し、ジャムかマーガリンか迷って、結局ジャムにした。
本当にライトな朝食を終えると、2階にあがってクローゼットを開ける。ちょっと幼稚かな、なんて思ったけど、最終的に買ってしまった、ピンクのスカート。まだ一度だって履いたことがない。この日のために買ったものだから。
『予定入ってない日なら、いつでもいい』
そう、ぶっきらぼうに言った彼の顔と、渡してくれたスケジュール帳が目に浮かぶ。ジムが忙しいなら仕方ない。そう思っていたけれど、そうやって休日を私のために割いてくれる彼が、やっぱりとっても好きだった。
アイロンで丹念に寝癖を直し、ワックスでちょっとだけ空気感。花柄のピアスは子供っぽいかもしれないけど、あなたがくれたものだから、なんだか特別な感じ。うん、かわいいわ、わたし。きっと。大丈夫よ、うまくいくわ。少し緊張するけど、せっかくあなたに会えるんだから。
お気に入りの靴を下駄箱から出して、踵を入れる。忘れ物なし、よね?多分。
下駄箱の横の全身鏡で、最終確認をする。髪、跳ねてないよね?変なところないよね?
大丈夫、大丈夫。はやくあいたい。
「いってきます!!」
扉を開けて、外へ飛び出す。
いい天気。時間はなんとか間に合いそうだ。待ち合わせ場所に近づく度に、顔が、綻ぶ気がする。
「…グリーン!」
愛しい彼の名前を呼ぶと、こちらに気付いて少しだけ笑った。ああ、好き。そう思う。
大きな時計のしたで、いつもよりちょっとだけめかし込んだ彼は、とっても輝いて見えた。
「お待たせ」
「遅いぞ」
まったく、とため息をついてグリーンは言った。目が笑ってる。
「久しぶり」
そう言って少し腕を広げた彼の胸に、私は遠慮なく飛び込んだ。
(きみときらきら)
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