めいん

□1万フリー
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はふはふと苦しそうに呼吸する相方の額に、そっと冷やしたタオルを乗せてやる。ひんやりした感触が気持ち良かったのか、ダイヤは息をついて、ちょっとだけ目を細めた。真っ赤に染まったほっぺたは未だ熱をもっていて、やっぱりまだ辛そうだ。
朝よりは下がったはずなんだけどなぁ。そう思ってぼうっと相方を眺めていると、彼は気だるげに口を開いた。

「……ねぇ、ぱーる」
「どうした、タオル温くなったか?」
「ううん…。ね、おいら、死んじゃうのかなぁ」
「……何言ってんだばぁか、ただの風邪だぞー」
「だって、すっごく苦しいんだよー…」

ごほ、ごほん。
語尾の代わりに出た鋭い咳に、こちらの方が心配になってしまう。大丈夫か、と呟いて覗き込むと、だいじょうぶ、と弱々しい返事がかえってきた。

季節の変わり目というのは、風邪をひきやすいものだとお嬢さんは言っていた。うつるといけないから、というダイヤとオレの必死の説得により、お嬢さんは渋々看病は断念していた。が、代わりにお粥を作ると言って勇ましく部屋を出ていってしまった。追い出しておいて何だが、少し心配だ。
相方の額に乗せたタオルに、そっと触れてみる。しっとりと濡れた感触と、微かな温度変化。もう温くなってきたようだ、氷入れた方がいいかな。窺うようにこちらをみる瞳も、潤んでちょっとだけ色っぽ……イカンイカンイカン。

「…パール、どうしたの?」
「う…な、んでもない…」
「…ふーん?」

げほ、ごほん。
ダイヤがまた咳をするので、咳止めの薬か何かもらって来ようと席を立つ。フロントに行けば貰えそうな気がするけど…どうだろう。やっぱり病院行った方がいいだろうか。まったく病人を前にして何を考えていたんだろうおれは!
いっそのこと、氷水でオレが頭を冷やすべきだろう、と浮かぶ邪念を振り払い、ドアへと足を向けた、そのとき。

「!、とと」

くい、っと服の裾を引かれ、体が後ろに傾く。足を二、三歩後退させて重心を保ち、引かれたほう、後ろを振り返る。

「…ダイヤ、どうした?なんか食べたいものあるのか」
「…ううん、いらない」
「えっ」

これはいよいよ病気だ。ダイヤが、食べたくない、などと言うとは。貴重すぎる。オレは、もう一回言って、と叫びそうになる気持ちを押さえながら、ダイヤの方へ向き直る。
ベッドから寂しそうな視線を送るダイヤと、しゃがんで目線を合わせ、オレの服の裾を掴んでいる手をやんわりほどいた。

「じゃあどうしたんだよ」
「…パール、どこいくの」
「……フロント。咳止める薬、あるんじゃないかなって」

わけを話しても、ダイヤは不安げに眉をさげるばかりで、何も言わなかった。風邪のせいかな、なんて考えていると、ダイヤはちょっと俯いてから、こちらをちらりと見た。

「…置いてかないで」

いわゆる上目遣い、というやつ、だ。真っ赤な頬で、潤んだ瞳で、上目遣いで。もう、ばか。そんな顔で、そんなこと言われたら。しかも好きなやつに、だ。
お前、確信犯なの?それならそうと言えよ、ちくしょう。ああもう。可愛いよ、あほう。

「大丈夫、だいじょうぶだから」
「起きてもちゃんと、居てよ…?」
「わかったから、寝ろって…」

上体を起こして泣きそうに言うダイヤを、ぎゅうっと抱きしめてから、ベッドに横たえた。いつもより高めの体温に、何故かこちらが溶けそうになった。
こうやって甘えてくれるのは今日だけなんだろうな、なんて、最低だけど残念だと思ってしまう。でもまあ、元気でいる方が、やっぱりいいよな。

「ゆっくり休んで、ちゃんと治せよ?」
「……うん、おやすみ」

閉じた瞼にそっと口づけをして、乱れた布団をかけなおす。お嬢さんの様子を見に行こうと今度こそドアをあけると、すぐその前にいた彼女はぎこちなく微笑んだ。









(まったくもって)
(アツアツですね)







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1万フリーでした
ありがとうございました!

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