めいん

□コウキとヒビキ
1ページ/1ページ

.


※映画ネタバレ注意?



ぽわ、と小さく光るオレンジ。あ、と思った時にはもう遅くて、相棒の名を呼ぶ暇なく、凄まじい程の熱風が渦をまいた。向かいにいる彼が叫んだ瞬間に、それは巨大な火柱となって、僕の相棒へと襲い掛かる。

「…っ!! ドダイトス!」

大きな爆発音と熱風、そして、ドダイトスが地面に倒れる音が、ずしんと響いた。
試合、終了。
びっくりした、すごい威力だ。あれは。

「……ブラスト、バーン」
「ボクの勝ち?」
「あっ、うん、そう。お疲れ様、ドダイトス」
「やった!バクフーン、ありがとう!」

背中でめらめらと炎を燃やすポケモン、バクフーンとハイタッチをすると、彼は笑顔でこちらを振り返る。僕は申し訳なさそうに鳴くドダイトスに、ありがとうごめんね、と声をかけてボールへ戻した。僕もまだまだだなぁ。

「君、強いね!えぇっと…」
「ヒビキ!ボク、ヒビキっていうんだ!」
「僕はコウキ!ヒビキくん、すごいね」
「ヒビキで良いよ!そういうコウキは、あんまりバトル慣れしてないんだね?」

爆発した前髪に、黒いキャップ。後ろ向きに被ったそれには、鮮やかな黄色いラインがひかれていた。ニコニコしながら言うヒビキに、ぐぅ、と押し黙る。歯に衣着せぬ物言いをする子だ。バトルをあまりしないのは事実なので、ごもっともです、と僕も笑った。

「でも勝ててよかったー、ボクの手持ち、危なかったから」
「え、もしかしてさっきもバトルしてたの?」
「うん!カントーから来た子だってさ、すごく強いピカチュウを持ってたんだ!ドンファンが負けちゃった」

回復させてなくて、コウキの試合、最初は断ろうと思ったけどね!ヒビキはそう言って、モンスターボールを撫でた。僕はそんな状態のヒビキに負けたんだね…。ちょっとだけ、切なくなる。どこかで休ませてあげたいんだけど、というヒビキに、僕も賛同した。みんなを休ませてあげないと。
とりあえず立っていても仕方ないってことで、僕たちは次の街まで歩くことにした。

「ねぇ、ヒビキはどこから来たの?」
「ワカバタウンだよ!」
「?、それ、どこ?」
「ジョウト。ボク、ジョウトから来たんだ!」
「ジョウト!?」

また遠い所から……。
目を見張る僕に、ヒビキは大きく首を傾げた。

「コウキは、シンオウの人?」
「うん、マサゴ出身。図鑑を埋める旅をしてるんだ」
「……律儀だね」
「僕は助手だから…。じゃなくて!シンオウまで、何しに来たの?修業?」

そう尋ねる僕に、ヒビキは待ってました!と言わんばかりの笑顔で、「それもあるけど」と言った。彼はいきなり鞄を下ろすと、中から小さく折り畳まれたチラシを取り出し、僕に突き出す。

「なに?」
「ふっふっふ。じゃん!」
「あっ!ポケモンバッカー!」
「やっぱり知ってたね!」

明後日からクラウンシティでワールドカップが始まる、ポケモンバッカー。トレーナーが三匹のポケモンを操作して、ゴールへシュートするスポーツだ。ヒビキはうっとりとした表情でチラシを抱いて、どうしても見たくて!とため息をついた。

「どっちみちシンオウには修業のために来る予定だったから、ワールドカップに間に合うようにジョウトを出てきたんだ」
「奇遇だね、僕もちょうどワールドカップ見に来たんだ!」
「ほんと!?やっぱりあれ、生で見たいよね、ライモンレジェンズ!!」

キラキラと目を輝かせるヒビキ。確かに、世界でも有名な資産家、コーダイ率いるチームライモンレジェンズは、ライコウ、エンテイ、スイクンという伝説の三体を連れていることから、サポーターのかける期待も大きい。それでなくても、希少価値の高いポケモンというだけあって、トレーナーを名乗る輩なら一度は見ておきたい試合だろうと思う。

「じゃあ、ヒビキが行きたい街ってクラウンシティだったんだね」
「まさかコウキも同じだったなんて!……あ、見えてきた!クラウンシティ…あれ?」

ポケギアを片手に歩いていたヒビキが、突然立ち止まる。どうしたの?と聞くと、彼は首を傾げながら、進行方向を指差す。

「なんか、騒がしいね」
「ほんと。人がたくさんだねー…」

ワールドカップが開催されるのだから、人が沢山いるのは当たり前のことなのだけれど……なんで、旧市街の入口に?
僕もヒビキと一緒に首を傾げていると、看板の上に設置されているモニターから、コーダイさんの謝罪会見が聞こえた。そして、ジュンサーさんの、これより旧市街を封鎖します、という声も。

「……封、鎖?」

その時の、ヒビキの顔といったら。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ