めいん

□パル→ダイ
1ページ/1ページ

.


隣の家に住むダイヤモンドとは、幼い頃から一緒にいる親友だ。幼稚園のときに出会った漫才師に感化されてお笑いの道を志した時も、双方の勘違いと思い込みによって始まった珍道中の間も、それから、今も。オレ達は「親友」という広いような狭いような名前の枠中から一歩も外へ出ることなく過ごしてきたんだ。いや、出ることが出来ずに、といっても間違いじゃないかもしれない。
もし変わろうとしたら、どうなるんだろう。今、オレがこの立ち位置を動かそうと思ったら、あいつはどうするんだろう。


「パール、パールってば」
「……え?あっごめん、なに?」
「アイス溶けてるよ」
「え!? わっ…」

ダイヤが指摘した通り、オレの手の上でオレンジ色のアイスが溶けて、棒を伝って手を濡らしていた。あわわ、と慌てて舐めとると、ダイヤはべたべただね、とソーダアイスをくわえて言った。

「珍しいね、パールがぼうっとするなんて。熱中症?」
「大丈夫、ただの考え事」
「どうしたら涼しくなるか、とか?」
「シンオウは涼しいだろうが」

溶けたアイスを舐めとりながらも、ツッコミは忘れない。
シンオウは北の方だし涼しいけれど、やっぱりコトブキの方は暑いもんだ。ああ、キッサキに行きたい。きっとあの最北端の街なら、ここよりずっと涼しいだろうに。オレ達はもしかしたらシンオウより南には行くことが出来ないかもしれないなんて思った。

好きだったのはずぅっと昔から。もうよく覚えていない。幼稚園の頃は、きっとまだ「親友」だったはずだ。ダイヤと遊ぶことは大好きだったし、実際にいつも一緒にいたらしい。だってあんなに小さな頃から、恋、とか愛、とか分かるはずないんだから。レンアイなんて、ずっとずっと大人がすることだと思ってたし、きっとオレだって、女の子を好きになるはずだって思ってた。
なのにな。

「好きだよ」
「え?」
「あっ……えと、あ、アイス!アイスのこと」
「ああ、アイスねー」

突然言うから何かと思ったよ。とダイヤは笑った。彼のソーダアイスはもう棒と同じくらい細くなって、その下に彫り込まれている文字を現そうとしていた。あ、当たり棒か。いいな。

「オイラも好きだよ」
「え?」
「アイス」

ああ、と、今度はオレが頷いた。ダイヤはえへへ、と笑って、やっぱりソーダ味が一番好きだあと呑気に言い放つ。
あつい。オレのオレンジソーダアイスはまだ半分ほど残っているはずだったのに、やっぱり溶けてもう残り少なかった。ああ、あつい。何があついのかよく分からないのに、とにかくあつかった。

「あ」
「どうした?」
「当たり棒だよパール、見て見て!」
「あー、本当だ」

分かってたけど。
オレのアイスも、当たり棒出ないかなぁ。そんな淡い期待を寄せたって、叶うはずもないのに。長年一緒にいたこの幼なじみが、オレをレンアイタイショウとして見ちゃいないこととおんなじ。ああ、あついなあ。じめじめじわじわ。何年も、溶けたアイスみたいにべたべたねちねち。ほんと、もう。

踏み出したら、なんか変わるかなぁ。

そんな風に考えるオレを嘲笑うかのように、アイスはどろどろと溶けていく。ちょっとぼうっとしただけでこれだよ、ほんと。アイスもう1本もらえる!とはしゃぐダイヤが眩しくて目を細める。オレの憂鬱も、このどろどろの感情も、何年もオレを縛る「親友」の肩書きも、全部全部甘ったるいシロップに混ぜて固めることができたら。なんて。

(そんなことしてどうするんだろ)

莫迦みたいだ、おれ。
溶けたオレンジ味のアイスの棒が、当たりだったら何か変わったかな。真っ白い棒は何もいわない。ああ、ほんとに。
太陽も運命も、オレを待っていてなんてくれないんだな。













.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ