めいん

□すき、スキ、好き!
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お嬢さんの所有する高級ホテルは、その破格な値段もやはり伊達ではないようで、部屋もすごく居心地がいい。徹底的に掃除された広い部屋は輝いて、豪華な調度品が所々に飾られている。そして、現に今オレが腰を降ろしている絨毯など、毛が長くてふかふかだ。とてもふかふかだ。気持ちいい。
オレはネタをメモした手帳をぱたりと閉じて、目の前に座っている相方にそろそろと腕を伸ばした。えいやっ、と相方の柔らかい身体を後ろから抱きしめると、ダイヤはたいそう驚いたようで、うわあと声をあげた。
……そんなに大仰にしなくたって。

「な、なんだパールか、はぁ、びっくりした〜」
「……」
「どうしたの?寒いの?」
「ネタ詰まりー……」
「あらら〜」

ダイヤはそれきりオレに声をかけないで、そのままおとなしく動かずにいた。ちょっと顔をしたに下げて、ダイヤの肩に額をのせる。じんわりと広がる熱が、なんだか嬉しくて愛おしい。
力をこめて密着すると、ダイヤがさっきまで作っていたお菓子の匂いがするりと漂ってきた。甘い焼き菓子の匂い。ふわふわ。
時々、無性に人恋しくなるときってあるよね。
今がまさにそれなのかもしれない。むうう。
ぎゅっぎゅっと相方の存在を実感していると、不意に彼はもぞもぞと肩を動かしだした。

「ダイヤ」
「ん?」
「どしたー?トイレかー?」
「違うけど〜……タウリナーΩ、始まりそうだから」
「……」

ダイヤは申し訳なさそうに、眉をさげて時計を見た。オレは少しだけ不満気な顔をつくって(せめてもの主張だ)、するするとダイヤから手を離す。
腕を自由にしてやると、今度はダイヤのお腹に手をまわして、さっきよりぎゅっと抱きしめた。

「ぐえっ、パール、苦しい」
「んー」
「もぉー…」

ダイヤがテレビをつけると、タウリナーΩの前回のあらすじが野太い声で響く。続いて流れ出す勇ましいオープニングに、ダイヤが頬を緩ませるのを感じた。解せぬ。

「なぁ、ダイヤダイヤ」
「ん、なぁに?」

オープニング後のCMに入ったところで、背後からそろそろと声をかける。本編中はタウリナーΩに夢中で、話を聞いていないことが多いからだ。
首をちょっと回して、こちらを見る相方に一言、申した。

「好き」
「……」

ダイヤは何も答えず、回していた首を元に戻してテレビの方を向いてしまった。
それと同時にCMは明けて、タウリナーΩ本編がはじまってしまう。な、ど、どういうことだ。ただ言っただけとはいえ、まさか聞こえなかったのか?
こんなに近くに、いるのに。

「なぁ、ダイヤ、ちょっと」
「……。だ、大丈夫だから…」
「…ぇ」

控えめに絞り出された声に、何故かこちらが狼狽えてしまった。相方は耳を真っ赤に染めて、また首を回してこちらを見た。視線が合ったような、合わなかったような。赤くなってたのは、耳だけじゃなかった。
ダイヤが、ダイヤがタウリナーΩじゃなくてオレを見てる!異様な事態だ。

「ちゃんと知ってる、から」

ちゃんと聞こえたからね。
たどたどしくそう告げて、またすぐに顔を背けてしまう。
相方がテレビの方に向いてしまっても、耳はまだ真っ赤なままで、ああ集中できてないんだろうなぁなんてちょっとだけ嬉しくなった。
えへへへ、なんて怪しげな笑い声を漏らして、オレはまた相方を抱きしめる。柔らかくて温かな感触が気持ち良くて、オレはその台詞を再三、繰り返した。





すき、すき、すき!


(きみにいうよ)
(何度もいうよ)







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マイナー愛!企画さまに
提出したパルダイです

素敵な企画
ありがとうございました!
パルダイひろがれー




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