めいん

□サトシとピカチュウ
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モンスターボールに入りたがらない君は、いつも決まって俺の横で寝ていた。それは今日も例外ではなく、久しぶりのベッドの感触に安心したのか、隣から穏やかな寝息が聞こえる。黄色いお腹を緩やかに上下させて、君は今、夢のなかにいるのかな?

「ピカチュウ」

呼びかけてみる。返事はない。

「寝ちゃったの?」

分かっているけれど問うてしまうのはどうしてだろう。応える代わりに君はすやすやと規則正しく寝息をたてた。

りん、りんと涼しげに、虫ポケモンの声が響く。もう夏も終わりなんだね、と、誰にともなく話しかけながら、ちょっとだけ寂しさを感じる。タケシもヒカリも眠ってしまっているようだ。真っ暗な室内からは、晩夏の夜空に瞬く星を眺める事ができた。虫ポケモンたちの声が、一定のリズムで、鳴いて、止まって、鳴いて。今、世界中で、起きてるのは自分だけなんじゃないかって思っても、聴こえる声がそれを払拭する。

眠っているピカチュウを起こさないように、規則的に上下するお腹をさする。あの日、旅立った日から、いつもいつでも一緒にいた君。ねぇ、もし、俺が寝坊しなくてさ、お目当てのゼニガメをゲットできてたら。ねぇ、もし、君のトレーナーが俺じゃなかったら。

「お前ならどうするの、ピカチュウ?」

なんて、聞いてみたいけど。今、君は夢を見ているのにね。
自嘲気味に笑った俺に、眠ったままのピカチュウは、そっと擦り寄ってくる。そして朧げな声で一言、ちゃあ、と鳴いた。
それ、寝言なのかな。もう寝ろよ、明日も早いんだぞ。そう言われている気もして、可笑しくなった。緩む頬が、抑え切れない。

「うん。もう寝るよ」

呟いて、今度はほっぺたを撫でた。

夢を見たい。
願わくば、君と同じ夢を。
もし、このまま一緒に寝て、君が俺の夢のなかにも出てきてくれたら。

なんて。

ちょっと、思っただけ。

「おやすみ」

おやすみ。
おやすみ。

今、星が流れたよ。
明日も一緒に、旅をしよう。

















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