めいん

□♂プラチナ×ダイヤ♀
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※性転換


本を読むのはすきだ。それはきっと、ずっと小さい頃からたくさんの本にまみれて生活してきたからかもしれない。父の書斎にあった本。博士の研究所で読んだ本。ミオ図書館で借りた本。だんだんと難しくなる内容と、増えていく頁数。それを博士や父が褒めてくれるのが嬉しくて、一日に何冊も読んだっけ。

「……っ、痛」

す、と紙面を滑らせた指に、ぴりりと痛みが走った。指の腹を見てみると、小さな傷痕が横に走り、若干の赤色が滲んでいた。紙とは、なかなかどうして鋭いものだ、滲んだ赤色はぷっくりと丸い球を作り、今にも流れそうだった。
救急箱、どこいったっけ?
本に栞を挟んで席を立つ。ドレッサーの下に、あったっけ。そう思い探そうとすると、視界の端でがちゃりと音がして、静かにスイートルームの扉が開いた。

「お坊ちゃま、お茶の用意できましたよー」

ひょいと顔を覗かせて、黒髪の少女はにこにこと笑った。
彼女の名前はダイヤモンド。赤い帽子と赤いマフラーが特徴的な、同い年の女の子だ。もう一人、パールという女の子も、自分と一緒に旅をしている。ダイヤモンドはどちらかと言えばのんびりした子で、彼女らは一応、自分の護衛だ。女の子に守られるなんて、あべこべだな、とは思うけれど。

「ありがとう。そこ、本の横に置いておいてくれませんか」
「あ、はぁい」

ドアを開けて、彼女が入ってくる。トレーに載せたティーセットから、紅茶のいい香りが部屋に漂う。お茶請けはたいてい彼女の手作り菓子だ。今日はスコーンですよ、と彼女はのびやかに笑った。

「お坊ちゃま?どうかした?」

やたらと部屋を歩き回る僕に、彼女が尋ねた。僕はああ、と呟くと、彼女に向けて手をひらひらと振った。

「ダイヤモンド、救急箱知りませんか?」
「救急箱?」
「指切っちゃって」
「えぇえっ!?大変、早く赤チンを!」

赤チンって……。あれ、正式名称はなんだったっけな?瞬時に思い出そうとするものの、断片的にも思い出せなくてもやもやする。そんなことをもんもんと考えている僕の横を通り抜けて、彼女は一目散にクローゼットへ駆けていき、扉を開けた。ああそんなところにあったのか。自分はこのホテルを所有している癖に、細かな配置なんかは知らないものなんだな。

そこ、座って。彼女に言われて、大人しく椅子を引く。彼女は救急箱の蓋をぱかりとあけると、しばしの逡巡の後、小さな絆創膏を手に取った。

「赤チンじゃなくて、いいんですか?」
「これ、入ってないみたい、赤チン。紙で切ったなら、すぐに固まるから大丈夫かなぁ」

彼女はそう言って僕の手をとり、でもとりあえず絆創膏貼ろうか?と、束から絆創膏を一枚ぴりっと破りとった。

「お坊ちゃま、手ぇ綺麗」
「そうですか?」
「うん!いいな、男の子なのに。何だか絆創膏貼るの、勿体ないね」

無邪気に笑う彼女の顔を見ていると、少しだけ悪戯心が沸いて来る。家でお手伝いさんと話している時や、博士の研究を手伝っている時には、決して出てこなかったこの気持ち。まだ何なのかは、よく分からないけど。

「ねぇ、ダイヤモンド」
「なぁに?坊ちゃま」
「あれ、してくれないんですか?」
「あれって?」
「ほら、よくある民間療法ですよ。昔本で読んだんです、傷口を、舐めて消毒する方法。あるんでしょう?」
「ああ、うん、あるよね!……って、え、えぇええ!?」

途端、ばふんと顔を真っ赤にする少女。綺麗、とは言えない顔立ちだけれど、その造りは文句なしに、可愛い、に分類されるものだと思う。彼女は僕の手をとったまま、もごもごと小さく呟いた。視線は左右に忙しなく動いている。可愛い。

「いっ…嫌じゃ、ない?」
「どうして?パールとはよくやってるじゃないですか」
「だって、パールは…」
「僕には、してくれないんですか?」

ちょっと小首を傾げてみせると、彼女はうぅっ、と言葉を詰まらせて、顔をさらに赤く染めた。もうほとんど真っ赤だ。眉尻を下げてたどたどしく視線を合わせると、彼女は小さな両手で僕の手を包んだ。
しばしの逡巡の後、彼女の唇が薄く開き、意を決したようにぱくり、と僕の指をくわえ込む。傷口を少し舐めて、口腔内から指を出そうとする彼女の舌を、そこでぎゅっと押さえた。指を更に奥まで伸ばすと、彼女は肩を震わせて驚いたように目を見開いた。喉に届きそうなところまで指を押しやると、苦しさからか、彼女は目を潤ませて僕の指を出そうとする。

「…、ぼ、ひゃまっ…」
「…あ、ごめんっ」

慌てて彼女の口から指を抜くと、彼女は真っ赤になってごほごほと噎せた。すみません、と言って背中をさすると、大丈夫とダイヤモンドは笑った。まだ少し涙目だ。彼女の体温が、手の平に心地好い。

「傷、大丈夫?」
「はい、おかげさまで血が止まりました」
「そ、そっか…よかった」
「ありがとう、ダイヤモンド」

今度は僕が彼女の手をとって、甲に軽くキスを落とす。上流階級の人達の挨拶の仕方だって、本には書いてあった。本物を社交場で見たことは、あまりないのだけれど。
僕はぱくぱくと声にならない言葉を発している彼女を見ながら、パールはどこにいますか?、と聞いた。

「お茶にしましょう、よかったら呼んできてください」
「…はっ、はぁい…」

ふらふらと出ていく彼女を、少し心配に思いながら、なぜか気分が高揚している自分に驚く。頬が熱い。
鏡を見ると、部屋をでていった彼女と同じくらい真っ赤な顔が、こちらを見つめていた。





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リアル再録

ダイヤモンドちゃんの
口に
指突っ込みたい





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