めいん

□ブルートレイン
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がたん ごとん がたん ごとん




「では、私はここで」
「気をつけてなー」

がたん、…ごとん、ききっ。
吊り革を大きくゆらし、コトブキ、と書かれたホームに停車する。お嬢さんは電車が止まると、座席からゆるりと立ち上がった。

「さようなら、パール、ダイヤモンド」
「さいならお嬢さん」
「……」
「ダイヤ、起きろって」

おれの肩にもたれていたダイヤを、揺すって起こす。彼は少しだけ目をあけて、ゆるゆると片手をふった。

「…ばいばい、おじょうさま」
「はい。ダイヤモンドも気をつけて」

寝ぼけ状態で挨拶する彼にお嬢さんはくすりと笑い、開いたドアを出た。けたたましいブザーとともに間もなく動き出した電車で、お嬢さんは遠くなる。見えなくなる。
慣性の法則で斜めになる吊り革を眺めながら、がたんがたんと揺れる座席に、おれは身を預けていた。空は藍色。山際は少しだけオレンジがかっていたが、夜空に瞬く星はやけに眩しい。暗い窓に映る明るい車内。寄り添う赤と緑の、マフラー。過ぎる街灯、木、林、森。

「ダイヤ、ダイヤ」
「……ん」
「あと、二駅」
「……うん」

夢の中から返事をするダイヤにあきれて、でもきっと着くまでに目を覚ますだろうと思い、息をつく。暖房が入った車内は心地好く暖かで、やはり眠くなる。だからといって直前まで寝ているなんて……今日のマラソンが効いたのだろうか?

ローカル線の終点近く。がらんとした車内にはおれとダイヤくらいしかいなくて、だれもきっと見ていない。その思考が、こてん、と、おれの頭を傾けさせる。
肩に当たるダイヤの体温と、頬に当たるダイヤの髪。身体の間からそろりと手を伸ばして、垂れる彼の左手を握った。

がたん、ごとん、がたん。

もたれたダイヤが温かくて、おれもうつらうつらと船を漕ぐ。あと二駅、と、頭で叱咤しながらも、もうちょっと、とその中でだれかが言う。

もうちょっとだけ。
ちょっとだけなら。

揺れる車内と、吊り革。過ぎる森、林、木、街灯。駅だ。次が終着だ。

マサゴタウン、マサゴタウン。

アナウンスを遠くに聞きながら、心地好い眠気に身を任せて、おれは目をとじた。蛍光灯で光る車内をシャットアウトし、寝なきゃ大丈夫だよと自己暗示。

真っ暗な視界で、重ねた手が握られるのを感じながら、かっくりと眠りにおちた。






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お客さん
終点ですよ





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