めいん

□11月22日
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日が落ちはじめたフタバタウンの、数少ない街灯に火が灯る。ぼんやりとした明るさが広がって、しかし沈む太陽はまだオレンジ色をしていた。
雪を掻いた歩道を、二人であるく。左右に別れて壁のようだった雪は、子どもたちによってかまくらやら雪だるまへと姿を変えていた。
ダイヤはお気に入りの赤いマフラーを揺らして、ふたつの紙袋をよいしょっと持ち直す。

「何買ったんだ?」
「んーと、じゃがいもとにんじん、あとモーモーミルクと…」
「あ、シチュー?」
「あたり!」

こんな寒い日はシチューが一番でしょ、とダイヤが笑った。吐き出された白い息が、ふわりと漂う。
夕闇に響く二人分の足音が心地好くて、ちょっとだけ目を閉じる。2、3歩あるいて、もう一度目を開けて。初めに見える赤いマフラー。紙袋を抱える手は手袋をしておらず、寒さで赤く染まっていた。

「それにさ」

唐突に、ダイヤが口を開いた。
冷たい北風にさらされて、耳も少し、赤くなっている。

「ん?」
「パール、クリームシチューすきでしょ?」
「え、うん」
「美味しいの作るからね」

えへん、と胸をはって、ダイヤが言う。もしかして、オレの為だったり、しないかな。するのかな。そう思ったら急に頬が熱くなって、ちょっとマフラーを緩める。

「ダイヤ」
「なに?」
「それ、持つよ」
「え、いいのに」
「いいから」

じゃあ半分ね。そう言って小さい方の紙袋を差し出すダイヤにむっとして、大きい方をとる。「あ」と小さく声を漏らして、彼は半分だった眼をまんまるに開いた。

「そっち重いよ」
「平気平気!」

持っていたトートバッグを肩にかけて、紙袋を片手に持つ。ダイヤも小さい紙袋を片手に持ち替えて、乱れたマフラーを直した。彼の左手はあいている。チャンス。

「ダイヤ」
「なに?」
「片手、空いたな」
「?、うん」

よく分かっていないらしい彼に内心もどかしく感じながら、冷えたダイヤの左手にするりと右手をのばす。ちょん、と軽く触れると、ダイヤがこちらを見た気がした。

「ほら」

ずっと待っていた。
こんなふうに、君と手を繋げるしあわせを。

「手、つなごうぜ」







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いい夫婦の日に、と
思ったけど大遅刻ね




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