めいん

□シルゴ
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とん、と、ベランダに降り立つ。ヤミカラスをボールに戻し、…少しだけ迷ってから、窓に手をかけた。大きな窓から差し込む太陽が、俺の影を黒く染めている。いい加減玄関から入ったらどうだよ、といつか彼に言われたっけ。

(玄関、か)

いつかできるようになるのか。
彼も最近は慣れてきたようで、何も言わないけれど。最初の方はいきなり窓辺に立っていたり着替え中だったりして、驚かせたこともあった。

部屋の住人であるゴールドは、ふかふかした白いベッドのうえで眠っていた。その姿を見て少し腹立たしく思い、がらりと窓を開けて、部屋に侵入する。彼の部屋にいたポケモン達が、いきなり入ってきた俺に何事かと視線をなげたが、いつも来る客人と分かったからか何もされはしなかった。数匹こちらに駆け寄ってくる。

「ゴールド」

彼はこたえない。いつも被っているキャップはベロリンガの頭に載っていた。ゴーグルも一緒だ。彼の腹部が規則的に上下するのを眺めていたが、やがて堪らなくなり肩を揺り動かした。

「ゴールド、起きろ」
「……んー…?」

しばらくすると、軽く身じろぎしてから、ゴールドは軽く瞼をあけた。

「あり、シルバー、なにしてんの」
「お前が呼んだんだろうが」
「……そーだっけ」

半ば夢心地で瞼を擦るゴールドに、いらいらとここまで来た経緯を説明する。だから、お前が、家に来いっていうから。ゴールドはしばらく俺を眺めていたが、やがて何かを思い出したようにああ、と金色の目を開いた。

「うん、呼んだ」
「やっと思い出したか」
「おう、悪かったなシルバーちゃん」
「で、用は」

と言うやいなや、ゴールドは俺の手をぎゅっと握り、再びベッドに倒れ込んだ。手をひかれた俺は、言わずもがな、道連れだ。
繋いだ手が、あたたかかった。

「…おい」
「手袋してないのな」

金色を楽しそうに細めて、彼は握った手に力をこめた。なんかうれしい。そう言って笑う。

「オレ、シルバーと昼寝したかったの」
「は、」
「一緒に昼寝したかったんだって」

じゃおやすみ。
それだけ言うと、彼は瞼を閉じ、すぐに安らかな寝息をたてはじめた。

(“おやすみ”…)

彼はいつも光のなかにいた。
まわりには笑顔が溢れて、たくさんの家族に囲まれて、そして彼自身も、眩しいほど光り輝いていた。
対して俺はいつも闇のなか。運命からは逃れられない、光には触れられない、そう思っていたのに。

その自分が、今たくさんのポケモンにかこまれて、白いベッドに寝ている。
へんな、気分だった。
でも不思議といやじゃなくて。
繋がれた手があたたかくて。
俺を引き上げてくれるのは、いつもお前で。

「…おやすみ」

小さく呟いて、まぶたをおろした。




たいようのきみ

(そのえがおがたとえ)
(おれだけのものでなくとも)






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シルバーはゴールドに救われたよねという





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