□○○○ちゃんのが1番いい
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テミン「・・・・どうしたの?」




テミンはそんな私の様子にすぐさま気が付いて足を止めた。


そんな、というのは、私が彼の手を握れなくて俯いてしまったことを指す。



テミンがくるりと、立ち止まった私の方を振り返るので、

手に持ってたビニール袋はカサッ、と音を立てて。地面にできたまるい影を揺らした。



○○○「・・・・・なんでもない」


テミン「なんでもなくないよ。今、手をつなごうとしたでしょ?…ん!」



そう言ってテミンくんは私に空いていた片方の手を差し出した。


○○○「え、えっ‥ιい、いいよぉ‥」


テミン「つなぎたがったのそっちでしょ?言っとくけど、僕の手、ちょっと汗ばんでるから!」




なぜか自信満々に言われて。

私はぷっ、てふきだして思わずその手を取ってしまった。


○○○「・・・・」


あったかくて・・・ほっとする。テミンくんの手。


細いのに・・・ちゃんと男の子の手、だった。



そしてほんとにちょっとだけ、汗ばんでた。フフ‥



テミン「○○○ヌナ、手をつないで歩くなんて・・・・子供っぽくて嫌いかと思ってたよ、僕」



テミンはそう言って、もう一度ぎゅっ、と私の手のひらを握りしめた。



○○○「そんなこと‥ないよ‥」



テミン「でもヌナ、たまに僕のこと子供っぽいって思ってるでしょ」


○○○「思ってないよ」


テミン「うそばっかり。この間コンビニで、新刊出てる〜ってレジの横の漫画カゴに入れたらすごいドン引きしてたじゃん」


○○○「してない、ってι」


テミン「プリンにキャラメルのソース1人で2個使った時も思ってたでしょ!」


○○○「思ってないよ。それいつの話よ」


テミン「去年」




手をつないで、他愛もない話をして。


買い物のビニール袋を振りながら歩く帰り道。



家に帰ったら私はしゃいにの家政婦で。

テミンくんはしゃいにの末っ子、に、戻る。



いまだけ。


いまだけの内緒の恋人。


私たちは誰にも話していない秘密の恋をしている。




○○○「ねぇ、歴代の家政婦さんの中で誰が一番料理美味しかった?」


テミン「えー、そんなのわかりきってても聞く?○○○ちゃんのが1番いい」


決まってるじゃん。と付け足して、テミンはえっへん、と胸を張って見せた。


こんなことろが可愛くて…。でも、笑った顔がすごいかっこよくで。



間近で見上げた彼の顔が、

夕焼けにあたってとても凛々しく見えた。



○○○「・・・・テミン…かっこよく、なったね‥」


テミン「ほんと?○○○ちゃんになら可愛いでもかっこいいでも、どっち言われてもうれしいけど」


ふふっ、と照れたように笑う横顔を見つめてると、なんだか胸が苦しくなる。


自分だけが取り残されていくような感覚。


テミンはアイドルで…

私はただの家政婦なんだ…。



そう思ったら、汗ばんだ手に握られている自分の存在が、とても嫌な存在のような…ドロドロした感情が胸を占めていく…。



○○○「・・・・テミン、ごめん‥」



テミン「へ?」



○○○「私・・・・こんなにおばさんで・・・・ごめんね…、」




俯いたら・・・


奥歯を噛んでも溢す涙を止められなかった。







テミン「・・・・・○○○ヌナ?」





テミンは驚いたわけでもなく。ただ優しく、背中を擦ってくれた。

優しく撫でて。呼吸が落ち着くまで一緒に立ち止ってトントン、と背中をたたいてくれた。



○○○「・・・・っく・・ひっく‥」



私がもっと可愛かったら…みんなにも紹介できたのかな‥とか‥

宿舎で誰にも内緒なのは、自分がこんなおばさんだからなのかなとか…

考え出したら止まらなくなって。


マイナスの思考はどんどん頭の中を浸食していく。



テミンはそんな子じゃないって、わかってるのに…。




私はふるふる、と自分の頭を振った。



テミンは膝の上に手を置くと、屈みこむように、俯いた私の顔を覗き込んできた。



テミン「・・・・・○○○?」



それは、


だれよりも優しく私の名前を呼ぶ、声・・。



○○○「・・・・・ご、めん」



テミン「どうして謝るの?○○○は何か悪いことをしたの?」


私は無言でふるふると首を横に振った。


○○○「でも私・・・・テミンを信じてなかった‥」




声を振り絞るようにして言うと・・テミンはフッ、てお兄さんみたいに笑って、私の頭を撫でた。




テミン「僕はたぶん…、○○○ちゃんが1番好きだよ?たぶんっていうのは、別に他の人を知らないからって意味だけど…あ!けど、別に僕は○○○ちゃん以外を見るつもりなんて‥ないからね?!」



○○○「・・・・・」




早口に唖然としている私に、テミンはさいごに「僕ね、」と呟くように言って、もうひとつ付け加えた。





テミン「○○○ちゃんのが1番いい」







私は目を丸くして、「それってどういう意味?」と言ったけど、テミンくんは買い物の袋を振り回しながらダーッ、と前に駆け出して行ってしまった。



テミン「早く早く〜♪1番美味しい夕ご飯作って〜♪」



子供のようにはしゃぐ彼氏を、私は小走りで追いかけた。




空はもう群青色。ビルの谷間にさっきまでの夕焼けが沈んでいた。



さぁ、ひみつを持って家に帰ろう。







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