□BETTER
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【BETTER】
ヌナと出会ったのは去年とか一昨年の冬だった気がする。
1年のうちでそんなに会えるわけではないから忘れてしまった。いつ会ったとかいつから会ってたなんて、僕にとってはそんな重要なことじゃない。
大事なのは、僕はいまも、
・・・ヌナを好きだということ。
・・・
ミノ「・・ヌナぁっ!」
仕事帰りに、とぼとぼ家路を歩くヌナを見つけて、僕はヒョンの運転するバンを降りて1人別行動。ヌナの背中を追いかけ、うしろから声をかけた。緩い坂を上る僕の息は、白く弾んでいる。
ヌナはそんな僕の声には驚いた様子もなくゆっくりと振り返り、「なんだミノか・・・」と小さく溜め息と一緒に吐き出した言葉と一緒にまた前を向いた。
ヌナはシャイニ-のファンだ。だからきっと普通なら僕が声をかければ嬉しいはずだ。
だけどヌナはそうじゃなくて。僕が声をかけてもぜんぜん喜ばないし、こうやって話しかけても見向きもしない。よかったのは大声を上げられなかったことくらいだろうか。そう思いながらようやく追い着いた。
ミノ「・・・何?CD買ってくれたの?」
ヌナが手にもってるCDショップの袋に気付き視線を落とし、勝手に話しかけて横に並ぶ僕。
なまえ「・・・うん、でもジョンヒョンが全然出ない」
ミノ「・・・・あ、」
そういって見せてくれたのは限定版に入っているトレ-ディングカ-ドで。そこには僕の顔が印刷されてた。
なまえ「もう5回も買ったのに・・・全部ミンホだった・・・」
ミノ「それは・・・あの、ええっと・・・」
それはそれで僕はすごく嬉しいのに、ヌナにとってはそうじゃなくて。
言葉を捜していると、ヌナは肩を落とし、寂しそうな顔でがっくりと白い息を地面に吐いた。
僕が横にいるのにヌナは癒せなくて。
僕のカードを引いて落ち込むヌナにかける言葉が見つからなくて、僕も肩を落とす。
しばらくしょんぼりと無言のまま二人で暗い夜道を歩く。
あまりの会話のなさがさみしくて、僕は思わずあの名前を出してしまう。
ミノ「ヒョンに・・・・会わせてあげましょうか?」
なまえ「・・・・いい。あの人会場で1回も私に目を合わせてくれたことないし」
けど、ヌナから返ってきたのは意外な答えだった。
ミノ「恥しいんですよ?本気な人に見つめられると・・照れるから」
なまえ「・・・・・いいの!」
言葉を遮るように少し力強く言われて。
少し・・・内心ほっとする自分がいた。
本当は会って・・・好きになられちゃったらどうしよう、って。
会った後のことなんて考えていなかった。
でも少しでも元気になって欲しくて。
けど言ったことばに落ち込んで。
君がそれを断ってくれたことにまた僕は"勘違い"する。
ミノ「・・・・ねぇなまえ・・・・手を、つないでもいい?」
少しかじかむ冷たい手の平を、
君に重ねようとする。
手はすごく近くにあって。
のばせば届く・・・
なまえ「やだよ、それぜったい冷たいもん」
ミノ「冷たいからあっためて欲しいの」
なまえ「私が寒くなるじゃん・・・やだよ、」
だけどそう言われてしまうから。いつも
この、距離。
恋人と同じくらい近い距離にいるのに、なまえは手もつないでくれない、目も合わせてくれない・・・。
君は知ってるんだ。
ねぇ・・・
本当に嫌いなら、
僕と目が合わせられるでしょ?
僕の真剣な気持ちを、正面から受け入れられるでしょ?
なのに・・
ミノ「それができないから・・・」
なまえ「・・え?」
僕は今日も言葉を飲み込む。
あなたに手が届いてしまうから―・・
こんなにも近くにあなたがいるから―・・
僕はその手を離せない――。
ミノ「・・・・なまえ、」
なまえ「ん?」
ミノ「・・・・僕じゃ・・・だめなの?」
なまえ「・・ははっ・・でも、これじゃあもう5レンジャーだよね」
力なく笑って僕に同じように並んだカードを見せるヌナに。別に僕が悪いわけじゃないのに胸が苦しくなって。どうしてヒョンがでなかったのかなって…
申し訳ないような気持ちが胸を刺すのに。
けど・・・
けど僕は・・・
ミノ「・・それだけ、ヌナの事が大好きなんですよ」
なまえ「・・・重たすぎるよ」
ミノ「ごめんね、」
あなたを愛し過ぎてて・・・・。
(あなたのその手を離してあげられない・・・。)
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