□あんまり可愛いことしないで
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ジョンヒョンの家に突発的に遊びに行ったら、玄関先から出てきた男は通話中だった。
「あーうん、うん・・・OK、大丈夫・・・」
なんて言いながら、とりあえず私を中に招き入れようと手招きをしてドアに鍵をかけさせる。
ジョンヒョンは通話を切るつもりはなさそうだ。
さっきから「じゃあな」という単語を言わない。
私は上り込んで愕然とした。
促されるままに入ったリビングは、飲みかけのいちご牛乳に、食べ残しの朝食のパンが固くなってもそのまま。
脱いだ服は散らかってるし、これが洗濯なのか、脱いだジャケットなのか・・・・はたまたパジャマのスエットなのかもよくわからない。
足で踏まないようにそうっと床を探して、
ジョンヒョンに座れ、と指示されるソファーにまでたどり着く。
ソファーの上もどことなく汚かった。
充電器とか漫画とか・・・・だいたい36巻のあとに38巻が置いてあるのはなんでなんだ・・・・37巻はどこに?
そんなことを考えながらきょろきょろしていると、
ジョンヒョンがペットボトルを持って戻ってきた。
誰が集めてるのか、おまけの食玩がついてるタイプだ。
袋の中身を覗こうとすると、目の前のジョンヒョンが肩で携帯をはさみながら、両手を合わせてすまなそうに目を瞑る。
どうやら、
電話の相手は切るに切れない相手のようで。
私は差し出されたペットボトルだけで時間をつぶさなくてはいけなくなったらしい。
・・・・・・なら、とりあえず37巻を探す?
私はとくに喉も乾いていなかったので、その辺の洋服を持ち上げて、畳んだりハンガーにかけるところからはじめた。
少しずつ床が見え始め、
私は誰のだかわからない洋服を手当たり次第に拾って・・・若干臭いをかいで、即座にお風呂場に持っていったりした。
ジョンヒョンは、そんな私の様子をしばらく目を丸くしてみていたけど、
害がないとわかるとまた携帯の方に意識を傾けていった。
○○○「・・・ないなぁ(・・・37巻)」
ぶつぶつ言いながらソファーの下を探索すていく。
あー、ここにも牛乳パック落ちてる・・・・やばいやばい。
今度はごみを片付けだすことにする。
ペットボトル・・・ペットボトル・・・食玩が入ってた袋のゴミ・・・お菓子の袋・・・・煙草の空き箱・・・?いかんいかん、みなかったことにしよう。
ちらりと、ジョンヒョンの方を見れば、
テレビ台の上に乗ってた37巻を持ち上げてこっちを見てた。
(お前が持ってたんかい…っ!)
お目当てのものが見つかったので、無事3冊テーブルの上に乗せる。
ついでにその辺に落ちてたダブりの食玩もその上に並べて置いておいた。
○○○「・・・・・・・(することがなくなったなぁ・・・)」
暇を持て余して窓の外を見てみる。
あまり使われていないのか、ベランダは殺風景だった。
冷たいコンクリートがあるだけ。私は窓の外を覗き込み、透明な窓ガラスにハーッと息をかけた。
白くなったそこを指でなぞって、大きなミカンの木を書いてみる。ついでだからガーデニング風にテーブルと椅子も描いておこう・・・。
庭が私の絵で充実してきたころ。
ジョンヒョンをちらりと見たけど、こころなしか肩を揺らして、まだ通話中だった。
どんだけ長ぇんだよ〜〜。ヌナもう帰っちゃうよ?
だらだらと時間を持て余して、私はとうとう他人の家のソファーでごろりと寝転がった。
○○○「・・いたっ!」
何もないと思ってばふんっ、と寝転がったら思いのほか尖ったものが頭の後ろにあってびっくりする。
よく見ると、クッションの色と同化した食玩が1匹居た。ご丁寧に何か尖っていらっしゃるものを持っている。
○○○「(おのれ〜〜)」
説教するように正座して、クッションをワッと持ち上げて食玩を床にたたき落とす。
クッションの下からは、なぜかそして37巻が出てきた。
○○○「2冊持ってたんかい!!」
その瞬間、
電話に向かってたはずのジョンヒョンが、「ぷっ」て吹きだした。コロコロと足元に転がっていく食玩を見下ろして、また私を見る。
ジョンヒョン「・・・・・あ、やっ、なんでもねっ・・・ククッ・・・・違う違うっ・・・・うん、うん・・・・ぶっ!・・・・あーもうっ!ぬなっ!」
私は足元に転がっていった食玩を拾いにジョンヒョンの方に駆け寄っていった。
ジョンヒョンは食玩を拾い上げて私の手に乗せる。
○○○「・・・・ありがと」
ジョンヒョンに食玩を渡されると、
なぜか私は頭を彼になでなでされた。
ジョンヒョン「あんまり可愛いことしないで?」
ジョンヒョンはクックッ、と笑いながら通話を切った。
○○○「可愛いことなんてしてないけど?」
真顔で小首を傾げると、
ジョンヒョンはにっこり笑って。
わたしにキスをした。
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