□僕は貴女が好き、一人の女性として…。
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ミノ「こーど、も、ってかーわ、いい!!!」
そう言ってミノは、ぱたぱたと私の元に戻ってきた。
ミノと私の関係は長い。
もともと私は、ミノの遠い親戚の家の向かいの家に住んでいた人間で。
たまたま娘の就職先を前の家のおばちゃんに相談していた母がきっかけて、おばちゃんの話がミノに伝わり、そして私にこの仕事が回ってきた。
つまり私は、ここで働きだした新卒の頃からずっとミノに頭の上がらない状態だ。
仲がいいのがあって、最近男性陣で欲しいものと女性陣で欲しいものの買い出しに行く時、ちょいちょいペアにされて買い物に出される。
別にアイドルに手伝わせることじゃないのに・・・
と、思うのだけど、当の本人はいたって気にしている様子はなく。むしろたまの外出を楽しんでいるようにも見える。
スポーツ番組に出ていたせいか。小さな子供たちに「よぉおい!どーん!」なんて声をかけられても、
俊敏にスタートダッシュを切れるし、
「お兄ちゃんボールとってぇ!」と言われれば、自らダンクシュートを決めに行くような男だ。
いまのいままでだって。
スリーオンスリーに若干の汗をかいて横に戻ってきたこの男に…私はちょっと溜め息をはいた。
ミノ「どうしたのヌナ?…はぁっ・・息切れっ?・・はぁ、はぁっ…」
○○○「・・・・息切れはそっちでしょ?」
ミノ「ははっ…、最近の子はやっぱ・・すごいね・・10代よりぜんぜんっ、年取ったって思うもん!」
○○○「あーそうですねー(棒読み)」
ミノ「あれっ、なにっ?怒ってんの?!ちょっとヌナぁ〜っ」
あんなにかわいかったはずの隣の家の親戚、の男の子が…
今ではこんな見上げるほど背が高くてかっこよくて、顔小さくて…モデルのような青年になってしまったなんて・・・。
そして新卒で入社したはずの私は早…1、2、3・・・・だめだめ。考えるのよそう!
○○○「・・・・ねぇ、ミノ」
ミノ「ん?」
結婚に行き遅れてる理由が…自分にあるのかも・・なんて思いたくない・・・。
引っ詰め髪なのも、化粧が適当なのも…服がいつまでたっても新しいの買いに行けないのも…
仕事がいそがしいから!
それは、
私が、"頑張ってない"わけ、じゃない。
むしろ私は"頑張ってる"って褒めてほしい!
ネイルサロンに通う時間も、美容外科に通う時間も私には、ない。
私にあるのは、今ある山盛りの資料をひたすらデータ化していくことだけ。
爪を伸ばしてたらキーボードが打てなくなるもの・・。
髪を巻いている時間があったらあと3枚はこなせるはずだわ・・。
なのに私は、
爪の先にきれいなバラのついた子に負けて、ふわふわも睫毛の子に負けて、そして髪がいつも綺麗にカールされた女の子に・・・・・、負けた。
私に残ったのは、毎年上がっていく給料と昇進という文字だけ。
でも・・・それって、間違ってるの?
どうして…私だけが惨めで空しい気持ちを味わうのかしら?
○○○「・・・・・ミノは、わたしのこと…どう思う?」
ミノ「・・・・ど、どうしたの?急に??」
呼吸の元に戻ってミノが、こちらに振りかえって目を丸くした。
○○○「私は何?かわいくないの?・・・・だめ、なの?」
ミノ「ど、どうしたの?上司に何か言われたの?」
○○○「・・・・こたえ、られないのね」
一瞬だけ目を泳がせたミンホに、私はスッ、と距離を取った。
ミノ「・・・・ヌナ?」
先を歩こうと足を前に出した私を追って、ミノが腕を伸ばす。
スリーオンスリーをやると言って出かけてった時に咄嗟に「持ってて」と言った買い物袋を片方取るための手だ。
○○○「…いい。ひとりで持てる!」
両手に袋を掴んだまま、グンッとミノの手を払い落とした。
ミノはその手にどこかビニールでも当たったのか、
それっきり静かになって。私としばらく立ち止まったミノの距離が、少しずつ離れていく。
あんまり離れすぎて、1人にして騒ぎになっても嫌だな、と思い、ふと、
立ち止まり。
うしろを振り向こうとした瞬間。
ばっ、と右手を持ち上げられて、握ってたビニール袋を手から剥がされた。
ミノ「・・待って、下さい!」
○○○「わ・・っ、」
それがあまりにはやいスピードだったから、私はびっくりして一瞬で心拍数が上昇した。
どきん、としたのは・・
目の前にミンホの顔があるからじゃない・・
今、
右手から袋を奪われて・・左腕が彼の手に掴まれてるからじゃ、・・・ない
ミノ「あなたが僕にそんなことを言うんなら…僕だって気持ちを隠さずに言いますよ、」
○○○「・・・・はぁ?」
どきどきする心臓の音・・・止まれっ。
ミノ「よその子供を見て、かわいいと思うのは・・ヌナがいる時だけですよ!」
○○○「は、はぁっ??」
ミノ「僕は自分の子どもだったら○○○ヌナに産んでほしい!」
○○○「あ、あの、ねぇっ?!」
押し返そうと右手をあてた彼の胸が・・・
やけに熱くて、びっくりした。
ミノ「僕は貴女が好き、一人の女性として…。」
そして彼は、
真昼間の市内に位置する歩道の上で、私にキスをした。
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