□あの花。
1ページ/1ページ
なまえさんとの出会いは、1年にもさかのぼる。
コンサートで出向いた、初めて訪れた地方の宿泊施設で、なまえさんは深夜の買い物をする僕に話しかけてきて、そのまま僕をトイレに連れ込み1R。続いて2R。
僕はすっかりほだされてたっていうのに、なまえさんときたらちっともそうじゃなくて。
僕は実際あれから、
一度もなまえさんから連絡をもらったことはなかった。
【あの花。】
そんな彼女が今。僕のスグ隣にいる――。
ミノ「・・・・・・え?」
なまえ「・・・・え、あれ・・・・ミノ・・・・くん?」
ここは、なまえさんと初めて会った場所とは何千キロも離れた土地なんだ。
そんな場所に、なぜ彼女が?
っていうか、なんで隣の部屋に?
ミノ「え・・・・・も、もしかして、とな・・隣の・・・部屋・・・?」
なまえ「え・・・?あ・・・・う、ん?」
僕は開けようとしていた自分の部屋のドアノブから手を離し、
そっと彼女の手の上に自分の手の平を重ねる。
なまえ「ミノ・・・・くん・・・?」
ミノ「会いたくて・・・・・・・・心が折れそうでした・・・・・」
なまえ「大げさだなぁ・・・」
僕は、ライブの後で少し汗ばんだ彼女の匂いを吸い込み、そっと寄りかかるように背中に身を寄せた。
ミノ「本当に・・・・・もう・・・・・会えないかと・・・・」
なまえ「大丈夫。まだちゃんとおっかけてるから」
ミノ「僕、彼女なんか作ってませんよ」
なまえ「ミノクン・・・・もてそうなのに・・・」
ミノ「なまえさん一筋なんです」
なまえ「ミノクン・・・・かわってる、ね」
ミノ「よく言われます」
くすりと笑った彼女に、僕は肩をつかんで振り向かせると、
そのまま唇にそっと口付けをした。
もう、何年も会ってなかったような気がする。
僕の恋の蕾がようやく、花を開いた。
【あの花。】
.