□ちょっとした幸福感
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その日は朝からとても穏やかで、満ち足りたような気持ちだった。


なぜだかはわからない。

ただ、とても落ち着いていた・・・というか、気分がよかった。


機嫌がよかったのかもしれない。





そんな日。







【ちょっとした幸福感】








その日は午前中だけやらなきゃいけないことがあって、早起きして事務所に行った後、部屋に戻ってきたら、

ジョンヒョンとなまえさんが居た。


居たっていうか残ってたっていうか。




ふたりが「おかえり」っていうから、「ただいま」ていって部屋に入る。



オンユ「なにしてたの?」



ジョンヒョン「なんもしてないよ」


なまえ「移行したデータがどこに入ってるのかわかんない」


苦戦してる彼女のタブレットを覗き込んだりいじったりしながら、



オンユ「朝ごはん食べた?」



と問えば、「食べてない」とジョンヒョン。



なまえ「お昼ご飯作ろうか?パスタは?」




「うーん」と答えを渋るジョンヒョン。昨日夕飯最後もパスタだったことを思い出す。





オンユ「ラーメンなら作れるよ」



なまえ「塩!」


ジョンヒョン「じゃあ俺も」




ふたりがノッてくれたので、昼ご飯ラーメン担当になる。



台所に入っていく僕のうしろをふたりがついてきたので手伝うのかと思ったら、


キッチンに入る手前で、ダイニングテーブルに向かい合って二人着席した。



僕はカウンター越しに二人を視界に入れる。






ジョンヒョン「なまえちゃんパスタ食べたかった?」


なまえ「ううん、麺が食べたかった」



彼女の料理を断ってしまった手前、ジョンヒョンが一応フォローをする。



ジョンヒョン「なまえちゃんのパスタ、今度食べるね」


なまえ「高いよ」


ジョンヒョン「高くてもいいです」



気を良くしたようになまえさんが笑う。


ジョンヒョンもその顔を見て、照れたように下を向いて笑った。





僕は麺を用意して鍋にお湯を沸かしていく。



具材はもやしと水菜しかない。


こないだテミンがきくらげを「なにこれ!」って言いながら全部食べちゃったんだ。


野菜売り場できくらげ売ってるの結構レアだったのに・・・。


野菜をボウルに入れて葱を刻んでいく。




なまえ「そういえば、ラジオ終わっちゃって寂しくない?」


ジョンヒョン「忙しくて考えてなかった」


なまえ「たしかに」


ジョンヒョン「5月辺りに落ちついた時にふと寂しく思ったりするのかも」


なまえ「5月選挙だよね〜どこ入れるか決めた?」


ジョンヒョン「母親は幼稚園の方で推薦する党があると思うけど」


なまえ「どうしようかな〜」


ジョンヒョン「俺は結構すきだったけど」


なまえ「私もだよ〜ヒロイン系はみんな好き!」


ジョンヒョン「なまえちゃん保守だよね」




なんだかんだ雑談するふたりを、湯気のこちら側からなんとなく聞いていた僕は、


とくに口は挟まずに湯だったお湯の中に麺をほぐしいれていく。




ジョンヒョン「それ、こないだ買った生麺?」


オンユ「そうだよ」



急にカウンター越しにこちらを覗き込むように話しかけてくるジョンヒョン。



なまえ「どこの?」


ジョンヒョン「お店で売ってたんだよ。テミンが欲しがって買ったの」


なまえ「え、怒られない?」



一気に心配そうな顔をするなまえさん。




オンユ「・・忘れてるんじゃない?」



爆笑するジョンヒョン。「絶対覚えてない」と笑いながら付け足す。



僕はタイマーを読みながら湯切りのスタンバイ。


用意した器にスープを入れ、順番に麺を入れていく。トッピングはサッと茹でたもやしと水菜だけ。

刻んだ葱をトッピングして、完成。





オンユ「できたよ〜」



透明な塩スープのラーメンの完成。


カウンター越しに、順番に手渡ししていく。



自分のを前に出し、キッチンから出てカウンターの向こうへ。


ジョンヒョンとなまえさんが向かい合って座ってるので、僕は手前側のなまえさんの隣に座った。




なまえさんがちょっと椅子を動かして僕のスペースを空けてくれる。



ジョンヒョン「葱ここ置いていいよ」


と、ジョンヒョンが自分の器の端を寄せる。

なまえさんは葱が食べられない。



なまえ「ありがとう」



と、いつも通りといった様子で器の葱を探すなまえさん・・・の表情が、次第にハテナ?に変わっていく。



なまえ「あ、私のに葱入ってない」


ジョンヒョン「え、マジで」



なまえ「当たり・・・かなっ」



なんだか、複雑そうな表情で、僕にはにかむなまえさん。



僕はすました顔をする。



ジョンヒョンが少しだけ硬い表情で僕を見てる。


オンユ「いただきますしようか」


なまえ「うん」


ジョンヒョン「いただきまーす」




箸を持ち、三人で食べる塩ラーメンはとてもおいしかった。


僕はずるずる麺を啜りながらそう思った。



オンユ「あ、おいしい、」



我ながら・・・と口に出して言うと、隣でなまえさんが渋い顔をして僕をみていた。




美味しい湯気の中で。



僕のラーメンをなんだか不服そうに口に運んでいるなまえさんを見て、僕は朝起きた時から感じていた気持ちを思い出した。


それはきっと、







ちょっとした幸福感。








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