□辛ラーメン食べたい人に捧ぐ
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私の彼、オニュが、またしてもこの間スーパーで辛ラーメン食べたいってカップ麺の前で立ち止まって言ったの。しかもキムチ味の方手の持って!
私その時は、「買わないって言ったじゃ〜ん無駄遣いしないでよ」って豚バラ持ちながら答えたけど、
何日か経って、思い返してみたの。やっぱり、買ってあげてもよかったんじゃないかな、って。
だって、カップ麺は体に良くないから食べさせたくない、なんて勝手な私のエゴだし、彼が食べたいものを食べさせてあげるべきかもしれない。
それに何より、【こんな日】に限って連絡もよこしてこないあの人に食べさせるべき食事は、こんな時だからこそ、カップ麺かもしれない!と、思い立ったからだ。
私は辛ラーメンのカップ麺とグラタン用のチーズ、それからちょっと奮発して30%引きの高い方のショートケーキを2つ買って帰った。
割引セールをやってる時間帯のスーパーから足早に家に帰れば、見上げた先の部屋の電気はまだ点いてなかった。
エレベーターを上がり、鍵を開けて中に入る。コートを抛り、しーんとした部屋の、真ん中に置いてある白い丸テーブルの上に、私はトン、と軽いカップ麺を真ん中に置いてやった。
カウンターの奥にあるキッチンの冷蔵庫に、ケーキとチーズをしまっている最中に、玄関がガチャガチャ、と音を立てた。
施錠が開く音がする。合鍵を持っている人物は一人しかいない。
オニュ「ただいま〜。夕飯食べちゃった?」
仕事から帰ってきたオニュが、コートとマフラーを外しながら部屋に入ってくる。何食わぬ顔で。
私は、ちょっとムッとした表情で彼を見上げた。
彼は、「ん?」と表情と一緒に声に出しながら、私の視線の指す先に目をやる。勿論、テーブルの上のカップ麺だ。そう、あなたの念願のね!
と、いう、どや顔を準備して、
あなたがテーブルの上を見終わって振り返るのを、待つ。
オニュ「ああ・・・、買ってくれた、の?」
えっ?えっ!?それだけ!?
私の期待する返答とは裏腹に、オニュの顔はなんとも素っ気なく、気もそぞろな塩対応。
私はあまりのリアクションの薄さに言葉を失ってしまった。
目を瞬かせる私をよそに、
オニュはいそいそと服を着替えだし、ジャケットを羽織りだす。
なまえ「え、えっ?ど・・どど、どっか行くの!?!」
別に夕飯は食べないにしても、一緒にケーキくらい食べたかったのに・・・?
私の買ってきた辛ラーメンにノーリアクションするくらいオニュにとって大事な用事が!?よりによって今日!?あったっていうの!?!
驚いている私の表情に、もはや呆れているようにも見える顔をオニュはして。
ソファーに置いてあった、さっき私が帰ってきた時に無造作に背もたれにかけたコートを押し付けて言った。
オニュ「ほら、行くよ?予約した店、まだ間に合うから!」
なまえ「・・・・へ?」
そうして、私が素っ頓狂な声をあげたことで、彼はおかしそうに笑って。「ありがと」ってもう一度テーブルの上を見て言った。
その顔は、憎たらしいくらい格好いい、いつものオニュの笑顔だった。
私はその晩、ちょっとカジュアル過ぎて場違いなんじゃないかっていうようなレストランで、夜景を眺めながら食事をした。
最後に出てきたデザートは、30%引きの何倍も何倍も美味しいケーキだったけど、
あれは日切れになるから今日中に食べなきゃいけない、と思い出したように私が、帰り路お腹を擦るオニュに申し訳なさそうに言うと。オニュは「じゃあついでに辛ラーメンも食べちゃおうかな」と言って、笑った。
「太るよ〜」って茶化す私の横に並んだオニュが、スッと腕を伸ばして、私に手を差し出す。その、上に重ねた手を、温かい手のひらでぎゅっと包むように握る。それはオニュにとって、大事なもののように。
オニュ「たんじょうび、おめでとう」
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