□はい、あーん
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フォークにさしたケーキを持ち上げて口元に近づけて、「あーん」ってしてみる。


動揺した彼女が、心底どうしていいかってわからない顔してるのをみるのが、たまらなく楽しい。



「あ・げ・な・い!」



って言って自分の口に運びケーキを食べてしまうと、君は心底安心した顔をするんだ。



・・君のその、困った顔、だ・い・す・き。



僕はにんまりと笑って、口角を持ち上げたまま君を見つめた。





テミン「ほんとにすると思った?」


なまえ「思ったから・・驚いた・・」


テミン「でもしなかったから安心したでしょ?」


なまえ「テミンくんいじわるだよ」


テミン「優しいでしょ?」



顔を真っ赤にする君はいつもかわいくて。


僕はついつい意地悪しちゃうんだ。

だけどね・・・・



時々僕は、その続きもしてみたくなるんだ。



真っ赤になって君が困ってるのも知ってる。

でも、そんな君に、雛に餌を上げるみたいに、その口の中にケーキを運んでみたい。


でもそんなのは妄想だけで。


実際出来た試しなんかなくて。


君を本当に困らせることはできなくて。




君に嫌われたらどうしようって。




僕はそんなことばかり考えてしまう。





ある日、部屋に入ったら、珍しく先に来ていたヌナが、テーブルの前の椅子に座ってて、その隣にジョンヒョンが座ってたんだ。

ジョンヒョンは買ってきたケーキを切り分けて、

フォークで一口サイズにすると、それを彼女の口元にもっていくんだ。



ジョンヒョン「はい、あ〜んっ」


まるで悪気なんてなしに。

悪意も他意も善意しかない。


ジョンヒョンはさもレディファーストですと言わんばかりに、彼女にフォークを向ける。


当然困った顔のいつも通りの彼女。


どうしていいかわからない顔は、僕の時よりも幾分とひきつったような難しい顔をしていたんだ。


僕は唖然とした。



なまえ「・・んっ!」


ゆっくりと開いた口の中に、ジョンヒョンがふつーにケーキを運んでいく。雛に餌上げるみたいに。



ええええ・・・うそでしょ・・・。




僕は何だか、そうとうショッキング映像を見てしまったような気分だ。


なまえヌナは恥ずかしそうに咀嚼するも、どこか嬉しそうに、ジョンヒョンにはにかむ。



ジョンヒョン「ね?おいしいでしょ?」


なまえ「んっ、うん・・あ、りがと・・」


ジョンヒョン「もっと食べる?」


なまえ「ううんっ!もう大丈夫」


ジョンヒョン「遠慮しないで?」



口元を手で隠すようにしてもぐもぐ口を動かすなまえ。


恥ずかしそうに照れ笑い。



僕は、そんな顔みたこともない。



当然だけど。



僕はそこでいったん思考をストップさせ、平静を取り戻すように「ただいまー」といつもよりも大きい声を出して部屋に入っていった。



ジョンヒョン「おかえり〜」


なまえ「お、おかえりっ」



なまえはごくんと飲み込み、今までのことはなかったことにでもしようというのか、席も立ち上がろうとする。




テミン「あ、ケーキじゃん」


ジョンヒョン「食べる?」


テミン「うん」



ジョンヒョンがサッと僕の方にケーキの皿を向けてくれる。



僕は「いただきまーす」と言いながらフォークでケーキをすくう。




テミン「はい、なまえちゃんあーん」



なまえ「え、・・っ?」



席を立とうとしたなまえが、驚いた顔で僕に振り向く。さっきよりも引き攣った様な顔で。



テミン「どうしたの?なまえちゃんに一口あげるよ」


なまえ「え・・、っ・・」



そこはね?さっき一口貰いました、なんて間違っても彼氏に言えないですよね?


僕は圧倒的な威圧感を内心に隠してにっこりとほほ笑んだ。



なまえちゃんは観念したようにそっと口を開く。僕はその唇が開かれるのを初めて間近で目撃した。


そして雛に餌を上げるようにそっとケーキをなまえちゃんの口の中へ。




ぱくり。



唇を閉じてもぐもぐと咀嚼をするとごくりと飲み込むなまえちゃん。




なまえ「おい・・しい、です・・」



テミン「うん」



なまえちゃんはとても動揺しているのか、いつもよりずっと瞬きしてる。


そして僕は、とてつもない充足感を感じている。


やりきったような・・満足感。


もうこれが、嫉妬による衝動的行動だったとかもうどうでもいい。



僕は、フォークを握ったまま打ち震えそうだった。





ジョンヒョン「・・・・あれ、テミナもしかしてなまえちゃんにあーんしたことなかった?ごめんね?」




一瞬で軽く殺意に変わったのは言うまでもない。



おしまい

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