□この奇跡だけを信じてよ
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夜中にふと、思い立って。

冷たい風にでもあたろうかと思って玄関を開け外にでると、






ジョンヒョンが立っていて驚いた。






なまえ「び・・・びっくりしたあ・・・」


ジョンヒョン「俺じゃ、ない方がよかった?」


なまえ「な、なにいってんの・・・」


ジョンヒョン「二股かけた女に俺なんて会いに来ないと思ってた?」




なまえ「・・・・‥」





ことばに、詰まった。

ジョンヒョンと最後に会話したのはもう何か月も前だ。

それまでは平気な顔してメールや電話をしていたのに。

ある日を境にそれをぴたりと止めたのは、



ジョンヒョン「彼氏と・・・・うまくいってんの?」



彼よりも好きな人ができたから。


というよりかは、

元々ジョンヒョンとは冷え切ってて。

会いたくても会えなかったり、メールしても返ってこなかったりって生活が長く続いて・・・。


これが、付き合ってる、っていう関係なのかどうか、よくわからなくなってた。


今の彼氏にはよく相談にも乗ってもらってたし、愚痴も聞いてもらってた。

成り行きと言えば成り行きなのかもしれない。

全然かまってくれない彼氏に愛想尽かして。

ふらりと目の前に現れたもっといい男に流されてしまうのは、女だったら当然なのかもしれない…


そう思えば、いっそ、楽だ。



ジョンヒョンに、

はっきりと別れを告げたわけじゃなかった。

自然消滅を狙っていたと言われれば反論はできないが、


何も言わなくても、気が付かないよ。居ても居なくても‥なまえは同じなんだよ…と。そんな風に今の彼に言われて。

なんとなく・・・試したい気持ちになったのかもしれない。


ぱたりと返信をやめたメールにも、電話にも・・・

ジョンヒョンは実際に気に留めたようにかけ直してくることはなくて。


私はもうこの数か月ですっかり彼は私のことを忘れてたと思ってた。



それが今になって・・・。






なまえ「どうしたの?」



ジョンヒョン「別に。元気なのかなーと思って」


なまえ「夜中に来て会えると思ってたの?」


ジョンヒョン「いんや。だから、会えたのは"今日が初めて"だし」



なまえ「・・・・・へ?」



ジョンヒョンの意味深な言葉に、思わず目を瞬かせる。



ジョンヒョン「俺がここに通ってから・・・会えたのは今日が初めてだよ」



なまえ「え・・・あんた何言って‥」




駆け寄って腕を掴もうとしかかった自分の手を、思わず引っ込める。




ジョンヒョン「・・どうしたの?」


なまえ「・・・・・べつに‥」




もう。

触れてはいけない気がした。





ジョンヒョン「なまえはもう・・・・・遠くに行ってしまったの?」


なまえ「・・そうよ」


ジョンヒョン「もう、戻ってこないの?」


なまえ「そうよっ」


ジョンヒョン「俺のことが好きだったのに?」


なまえ「・・・・っ?」


ジョンヒョン「俺じゃない・・・ほかの誰かで、なまえは満足するの?」


なまえ「違うっ・・!私はもともと・・・・っ」


ジョンヒョン「でも・・・・なまえは、俺にこころを開いてくれたでしょ?」


なまえ「・・っ‥ッ!」


ジョンヒョン「俺に開いてくれた心は、どこにいっちゃったの?」


なまえ「違うっちがうちがうっ!!」


ジョンヒョン「ちがわないよ。なまえが開いてくれた心の鍵が、俺の中にちゃんと残ってるもん」


なまえ「残ってないっ!」


ジョンヒョン「残ってるよ。俺まだ、なまえの心を開けられるよ?」


なまえ「開けられないッ!」



ジョンヒョン「だって・・・」





ジョンヒョンはスッ、と腕を伸ばし、その指で私の頬を伝った涙を拭って言った。




ジョンヒョン「・・・・ほら。なまえはまだ俺が好きで泣くんだよ?」




なまえ「違・・っこれは・・」


ジョンヒョン「なまえがいなくて・・・・・さみしかったよ・・・」


なまえ「言うなぁ・・ぅっ・・くっ」


ジョンヒョン「じゃあ・・・・・鍵を、返そうか?」


なまえ「・・・・へっ?」




ジョンヒョンはぎゅっ、と握りしめた空の拳を、私の方に見せる様に渡してくる。




なまえ「え‥え、なに?」


ジョンヒョン「・・・・ん。なまえが俺の心を開けてくれた鍵・・・・返す」



ジョンヒョンは受け取る様にと、ずいっと拳を前に出してくる。



なまえ「や、やだよっ!」


ジョンヒョン「俺だってやだよ!お前に開かれた心くらい閉じさせろよ!」


なまえ「は、ハァッ‥?!」


ジョンヒョン「心こじ開けたまま居なくなるなよ。閉めてけよ・・・そしたら、俺もお前のこと忘れてやるからっ」


なまえ「・・っお、・・おぅ‥っ」



スッ、と手をのばし‥






彼の差し出す拳の下に、指を伸ばしたその時だった。




ジョンヒョン「・・やだよ!」



パシンッ!と急にジョンヒョンの拳が開かれて、私の伸ばした手首は、すぐに彼に掴まった。





なまえ「ジョ・・ン、っ」


ジョンヒョン「返したくなんかないんだって!気付けよっ!」


なまえ「な、何っ!」


ジョンヒョン「こうでもしなきゃ俺はもうお前に触れられないのかよっ!」



握られたジョンヒョンの手が・・・指先まで凍えるほど冷たくて。私は肩を揺らしてびっくりした。



なまえ「なっ・・・なんでこんなに冷たいのっ?!」


ジョンヒョン「・・・・今日は、まだあったかい方だよ。なまえに逢えたから‥俺の心はちょっとあったかいの」


なまえ「・・ば、ばかじゃないの‥っ」



ジョンヒョン「俺、ばかなんだよ・・・」




ジョンヒョンはそう言いながら、私の熱を奪っていくように、冷たい両手で、ぎゅっと私の手の平を包み直した。



ジョンヒョン「俺バカだから・・・俺の心を開いてくれたやつに逃げられるなんて思ってなかったんだよ・・・」


なまえ「ば・・」


ジョンヒョン「でも俺は・・・・・なまえを手放せるほど馬鹿じゃないんだよ・・」






冷たくなった手が・・・じんわりと、互いの熱を肌に伝える。





ジョンヒョン「約束も何もしてない・・・・でも俺はこうして、なまえに会えたよ。何も言わなくても今・・・俺となまえはつながったんだ。繋がってるんだ・・・ずっと・・・・この奇跡だけを信じてよ‥なまえ‥?」


なまえ「ど‥っどうすればいいのよっ」




ジョンヒョン「あっためてよ。俺のこと、うんと抱きしめてよ」




それからはもう


私のからだは、何も考えずにもう彼を抱きしめるように動いてた。

ひろげた両腕を彼の背中に回して。

冷たくなったそのからだを温めるようにぎゅっと体温を染み込ませた。




抱きしめた私に、彼は何も言わなかった。





ただ・・・

何かを取り戻すように、ぎゅっと私を抱きしめて続けていた。









肩が、涙で濡れるまで。




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