□僕だけが知っていること
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ただいま〜と帰ってきたミンホは、小首を傾げながらリビングに入ってきた。
オニュ「どうしたの?」
ヒョンはまた未確認生物図鑑とかわけのわからないものを読んでたので、ミンホはそれに目を向けて、あえて何も触れないで黙って鞄を置いた。
ミノ「兄さんって・・・・不思議な人ですよね」
オニュ「それ、・・・・どういう意味で、どっちの?」
ミノ「ジョンヒョニヒョンですよ。昼間、なまえさんに電話したら?って携帯を渡したのに、ヒョンは、いいって言うんですよ」
オニュ「それで?」
ミノ「僕、なにか間違ったこと言いました?僕、間違ってないですよね?会いたかったら電話すればいいって、正しいアドバイスでしたよね?」
オニュ「・・・・はぁ、」
オニュはちょっと面倒くさそうだな、と思いながらも、ぱたん、と本を閉じてミノの方に向き直った。
ミノ「僕のアドバイスが間違ってたわけじゃ、ないですよね?なんであの人は電話をしなかったんだろう・・・?だって!会いたい、んですよ?!」
力説するように語尾に力を入れるミンホ。
たまにある現象で。
ミンホは、自分が正しいと思ったことを他人がしてくれないと、いや‥みたいで。
それをしてくれないと、
自分が間違っていたのかな?と悩みだす、変な癖を持っている。
オニュは胡坐をかくように座ったまま、からだをぶらぶら揺らしながら、ミンホの話すことの経緯を黙って聞いていた。
そして聞き終わって、「ね?ヒョン、僕間違っていないでしょう?」を聞いた後に、振り子のように揺らしていたからだを止めて言った。
オニュ「ジョンヒョンはたぶん、・・・待ちたい、んだと思うよ?」
ミノ「違いますよ。会いたい、ん、ですよ」
オニュ「いや、だから・・・・それは、"会いに来てほしい"でしょ?」
ミノ「だから"会いたい"でしょ?」
オニュ「ちがうよ?」
オニュはぽりぽりと頭を掻いた後、またからだを揺らしだした。
オニュ「ジョンヒョンは、"会いに来てくれるのを待ちたい"、なんだよ」
ミノは、理解不能・・・・という顔で眉をひそめて考え込んだ後、「ふぅん」と、納得してるんだかしてないんだかわからないような返事を漏らして、台所の方へ消えた。
きっと、水でも飲みに行ったんだろう。
オニュはその背中を、台所に消えるまで見送って、また自分の本を開き出した。
ミノ「・・・・でも、"会いたい"んですよね?」
どうやらまだ納得していないようなミンホの声が返ってくる。
オニュ「そうだね」
オニュはもう反論しないことにしたようだった。
そこに、
"ピンポーン"
と、深夜も近いって言うのにインタホーンの鳴る音。
トイレにでも行ってたのか、玄関に一番近かったとみえるテミンの出た「おわぁっ」という声とほぼ同時に、
"どたどたどたぁっ"
とけたたましいような音がして、「なまえちゃぁあん!!」と甲高いキーキー声が聞こえた。
ここまで聴こえなかったような、玄関先で交わした些細な声でさえも見落とさずに聞いてたなんて、そうとうな耳の持ち主だ、とミノは思う。
ミノ「電話・・したのかな?」
オニュ「さぁ?」
ジョンヒョン「なまえちゃんっ!どうしたのっ?!えっ!出張?!お、お土産っ?!」
どうやら、廊下の向うの会話を聞く限りでは、電話した・・という感じではないようだ。
ミノ「タイミングがよかったんですね」
オニュ「ジョンヒョンは、"待てる人"だからね」
ミノ「待てる人・・・?」
オニュ「普通・・人は、変化があると、自分も変わろうとするでしょ?焦り過ぎたりすることの方が、多いはずなんだ。けど、ジョンヒョンはそうじゃない。必ずそこに居てくれるんだ・・・・だから、すごいんだよ」
言い終わった後。オニュはパタンと本を閉じてた。
それと同時に、スキップするようにドアからリビングに入ってきたジョンヒョンとなまえ。
ジョンヒョン「なまえちゃんがお土産買ってきてくれたんだって〜♪」
嬉しそうに彼女の肩に両手をのせて並んでやってきた彼に、
眉間にしわを寄せてたミンホもつられて笑うしかない。彼の笑顔はそれでけ、人を引き付ける魔力を持ったような笑顔だったから。
ミノ「昼間はあんなに寂しそうな顔してたのに・・・」
オニュ「ん?」←もうお土産しか見えてない
ミノ「なんでもないです」
それはきっと、彼女の知らない顔。
【僕だけが知っていること】
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