オリジナル

□各駅停車
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「ずっと写真撮ってて、変な人だなぁって思って見てたらいきなりころぶし。面白かったけどね」

「変な人って…。じゃほとんど始めから見てたの?」

「砂浜へ来てからずっと。お兄サン地元の人じゃないだろ?」

「うん。君はそう?」

「すごく近くだよ。あ、俺いつき」

「あ、ごめん。俺は義斗」

「…義斗ってさあ、いくつ?」

「俺?25。いつきは?」

「19」

「大学生か…いいなぁ〜」

「……まぁね」



砂浜を上がって海岸沿いにある小さなかき氷屋で、お礼もかねてかき氷を一杯奢った。
一緒にイチゴミルクを食べながら、他愛もない話をしてやっと名前を聞いた。
それだけなのに内心喜んでる自分がいる。
やばいやばい。これは本格的に危険だ。


「あ、いつき」
「ん?」
「舌、赤くなってる」
「え、ほんと?」


俺が言うとわざわざ舌を出して確かめ様とする。そんな仕種も可愛い。
相手は大学生だ。きちんと分かっている。
まして今しがた会ったばかり。俺はここの人間でもない。
一目惚れしてる場合じゃないんだ。
なのに、単純過ぎる思考に少し嫌気がさした。


「――…あ、そうだ」
「何?」
「いつきの写真撮らせてよ」
「え!俺?!」
「うん」


仕方ない。精一杯今の時間を楽しんでやろうじゃないか。
俺は半ば自棄な発想でいつきに写真を申し込んだ。
実際彼は随分可愛らしい顔をしていた。
魅力的な笑顔も持っている。純粋にカメラに収めたいと思っていた。
何度か俺が頼み込むといつきはしばらく悩んで「じゃこの顔ね」と言ってさっきと同じ様に舌を出した。
でもただ出したというよりか、目をおもいっきり閉じて、所謂あっかんべー!の顔だ。


「……ぶっ」


カメラを構える前に、たまらず笑ってしまった。


「ああ!ちょっ何笑って――」


気付いたいつきが顔を赤らめて怒ってきた。
その表情こそ撮らないと損だなと思ってシャッターを切る。


「ばっ、撮るなっ!」
「ハィ笑ってー」
「っ〜〜……」


自分からやってきたのに俺が笑ったのがよっぽど恥ずかしかったらしい。
でもこうなったら俺も止まらない。
いつきが拗ねてそっぽを向いてしまうまで何度も何度も写真を撮った。

 
 
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