銀魂

□土方十四郎誕生日特別小説
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「ってことだから今日は特別に一日ずっと一緒にいてやるよ」
銀時がわざわざ真選組屯所まで訪ねてきた、かと思えばそんなことを言われた。
土方は珍しく優しげな銀時にきょとんとするばかり。

「え…ぇえ?
おま、い、今なんて…」

「だからお前今日誕生日だろ?って、だから今日は特別に一緒にいてやるっつってんだよ
何回も言わせんな
羞恥プレイですかコノヤロー」

羞恥を感じているとは思いがたいガンを飛ばしてくるが、まぁこれは既に二人の日常として受け入れられている銀時の照れ隠しである。

「き、今日…?俺の?」

「あ゛?なんだまさか違ぇとか言うんじゃねぇんだろうなぁ?!なら即行帰るぞ」

「いや今日だ!!今日が俺の誕生日だ!!…けど」

"けどこいつ律義に覚えてやがったのか…?"

この男が?糖分とジャンプの続きくらいしか考えられなそうな頭をしたこの男が?
いやぁナイナイナイ、地球がバックリ割れたってナイ。

「お前今すっげぇ失礼なこと考えてねぇか?」

「え?いや、気のせいだろ」

「絶対ぇ気のせいじゃねぇよ
んだよったく…こっちはお前が少しゃ喜ぶかと思って来てやったのに」

「ならマヨネーズの一箱は寄越せ」

「一箱?!パックじゃなくて箱ォォォッ?!!お前マジ1日に何リットル吸ってんだよ!死ぬぞ!!」

「1日に2パック3パックは当たり前だろ」

「一般常識みたいに言ってんじゃねぇぇぇっ!!それが一般常識なら人類みな平等に高血圧で壊滅してんだよ!!」

見事な突っ込みをかまして銀時は畳に胡座をかいて「で、」と話を続けた。

「何かねーの?」

「何が」

「何がって…誕生日だよ
折角来たんだからよ、何かこう…やって欲しいこととか」

「ならマヨプレi」

寝言は寝て言え

この時の銀時の笑顔は今までに見たこともないような爽快感溢れる笑顔だったと土方は後に語る。
そして土方は『無理強いはしない』ことを覚えた。

「あのさー
お前ヤる以外に興味ねぇの?まぁ『銀さんがプレゼントー』みたいなこと言われたら考えなくもねぇだろうことは予想してはいた」

「ならてめぇは何のためにここに来たんだよ?」

「だからお前の誕生日のためだっつってんだろ耳鼻科行け」

「てめぇは脳神経治してもらってこい」

「んだとゴルァ!!!」

「上等だオルァ!!」

「あぁやって…ってだから違うんだって」

「…?」

手を横にブンブンと振ってその手で頭を掻く。頭を掻くのは困ると始まる銀時の癖だ。
もさもさ頭を掻いていたかと思えば次は畳をガリガリと引っ掻く。

「ぁー、えーっと…
今日は喧嘩しに来たんじゃねぇんだよ」

「喧嘩なら年がら年中飽きるくらいやってんだろ」

「あぁそうだ
だから今日くらいは…って思ったっつーか、誕生日なら少しゃいいんじゃねぇかなー…と」

「何がだよ
回りくどい言い方してんなよ、らしくねぇな」

「いやそれは自分でもわかってるけどよー……」

う゛ー…、と唸った銀時はまたガリガリと頭を掻いて意を決したように土方に向き直った。泳がせていた目ももう離すまい。

「誕生日を理由に少しゃ素直になれってことだ!!」

「素直?」

「おう」

「どう?」

「だから仕事休め」

「人の話を聞け
あと何でそうなる」

「デートだデート!
今から町に繰り出すぞ!」

「今から?!ち、ちょっと待て仕事を休むなんて俺が勝手に決められるようなモンじゃ!」

「既にゴリラから許可は貰ってある」

「手早ぇっ!つか本当に行くのかよ?!」

「銀さんからの貴重なお誘いだぞコノヤロー断ったらどうなるかわかってんだろうなぁ?」

貴重、と言えば貴重だろうか。普段待ち合わせや会う日等はその場の成り行きで帰りに「次どうするよ?」「再来週の同じ曜日時間でよくねぇか?」「わかった」ととんとん拍子に決まる。よって互いに誘ったことなどないのだ。
さらに思いを告げたときとて例外ではない。場所は居酒屋、この時から既にとんとん拍子の待ち合わせは始まっていたが恋仲とまではいっていなかった。

『でさぁ、ズバーッとなってこうなったワケよ』

『外に出て大丈夫なのか』

『大丈夫だろ
何?心配してくれてんの?』

万事屋の仕事で怪我を負った銀時であるが、この日もボイコットするでもなく待ち合わせ定時刻に来て土方と飲んでいた。
へらりと冗談で聞くと土方は傷がある腹をパシンッと軽く叩く。

『っぐぉぉ?!!』

『駄目じゃねぇか』

『いや…!コレお前が叩いた性ッ…ていでででで!!!』

『もう帰れよ…
開くと厄介だぞ』

『オイオイ、すっぽかしたら悪ぃだろうって俺の良心的な配慮はどうしてくれんだ』

『知るか
とにかく帰れ、それとも送るか?』

『っつつ
頼むわ、何か色々言ってたら血ぃ滲んできた』

『言わんこっちゃねぇな』

お代を払い唸る銀時の肩を支えて立たせ、店を出ようと出口に向かう。
その時に一人カウンターに座って愚痴を溢す女がいた。

『遊園地に行って映画も一緒に見に行って…!!ご飯作ってあげたりもしてたのよ?!その恋人がなんで今になってふるのよッ…!!』

『……』

『………』

無言に店を出た二人だったがふと、

『遊園地…行ったよな?』

『あぁ…映画も、見に行ったよな?』

『ああ…』

遊園地は銀時がスーパーの福引きで遊園地招待券を当て、子供たちが行かないものだから土方を誘って行った。
映画は土方が見たいだの何だの一人で見に行くのは忍びないので銀時を呼んだ。
こうしてみれば都合で仕方なく、ととれるが

"それならこいつじゃなくてもよくねぇか?"

見事にシンクロした。

『………』

『…』

『なぁ土方』

『あ…ぁ、』

いつもは多串君多串君と本名で呼ぼうとしない銀時の口から自分のちゃんとした名字が出てきたことに土方は隠すでもなく思い切り動揺する、が、銀時も同じく違う意味で動揺しているので土方を茶化す余裕など到底ない。この場合土方の動揺は銀時と同じ内容と名字呼びで二割増しかもしれない。

『あのさ…お前さ』

『あぁ……』

バクバクと二人の心臓が高鳴る、さながら某初恋アニメだ。

『あの……さ、
俺…たちっ、て……何?』

『…………』

何?と聞かれて胸のうちの結論をそう簡単に口に出せるわけがない。土方は口籠り銀時は銀時で土方の返答を待つばかり…。
どう返すかと考えているうちに進む足は万事屋前に着いてしまったのだ。

『えと…じゃあ、また再来週のこの曜日辺りならもう治ってると思うから』

『あ…あぁ…また、再来週…』

『おう…』

""きっ……
気まずすぎるぅぅ!!!!""

第二回シンクロ。
気まずいのはよくないがここで下手に返答をしてしまえば墓穴を掘ってしまうことになる。ただ場の空気は表し様のないくらいに悪いものとなっていた。
土方は銀時のくるくるした毛先やら万事屋の看板やら地面の雑草やら目を泳がせていたが短気の彼には我慢の二文字など役にもたたず(銀時も同じだが土方の方が至極短い)痺れを切らして口を開いた。

『そっ…そういうのッ……
…なんじゃねぇのか』

『ぇ…へ?な、何、
そういうのっ…て何だよ?』

『てめぇが思う通りの意味だ!多分俺とお前が考えてることは不本意だが同じだろうからな!
それ以上は聞くなッ!!』

怒鳴るが如く言い残して、土方はその場から走り去ってしまった。あ、と銀時は引き留めようとしたが土方はもう見えない。

『…そっち、屯所と逆の道だぞ……』

呟いて銀時は苦笑した。
このことがあってから二人は恋人らしい雰囲気を漂わせるようになった。悪友からの進展である。だがこの進展が限界点なのか……体は大人、頭脳は中二以下のその名は名意地っ張り中二病×2は告白らしい告白もせず、とにかく成り行きに任せた。
そして今日、土方の誕生日こそ素直になれるであろうチャンスであると、銀時は践んだのだ。

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