戦国BASARA
□叫ぶ声君に届くことなかれ
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「家康…家康家康家康家康家康……!!!」
何故裏切った
貴様に流す涙もないと思いながらも彼の頬をつたう滴は確かに悲しみと怒りの念を湛えていた。
敬愛するは我が主君秀吉様、その軍師を勤めた半兵衛様
その二人とは違った位置でたった一人、三成の心を占める人物がいた。
豊臣に下り周りに何を言われようが笑顔を崩さない男
三成を唯一恐れなかった男
絆を説く男
絆を説く男が絆を断ち切った
いや、
無惨にも裏切った
「許さない…
私は貴様を許しはしない!!!!その首をこの手で刎ねるまで!
貴様が私から何もかもを奪ったように貴様から何もかもを奪ってやる!
貴様が私の全てを崩したように貴様の全てを崩してやる!!!!」
怒りは強固だった。闇を取り巻き一層に強いものとなる。
「何故裏切った!!何故…!!」
信 じ て た の に
男が悔やむような表情を見せる度に三成の心は荒れ狂う。刃を向け男を切り裂き…意識の底では嘆いていた。
友を殺すことを
友を憎むことを
友に裏切られたことを
友が自分に攻撃の手を向けていることを
肩に受けた拳が痛み涙腺を仰ぐ
「ワシはワシの描く太平の世を目指す
その為に秀吉公は…倒すしかなかったんだ」
「何故だ…!何故ッ……答えろ家康ぅぅぅぅぅぅ!!!!」
家康からしてみれば何に対しての問いなのか解りかねただろう。それでも憎悪の念に隠れた何かを感じた。
「三成…間違いだったのか
ワシのしたことは間違いだったのか?!!」
「何を今更…!!!秀吉様を私から奪いほざくな!貴様は何がしたかった?!私を陥れたかったのか!
私はッ…私は貴様を唯一の友と定めていた!!」
ざくり
動揺に停止した家康の腹へ刃が深く突き刺さる、刹那流れ出す鮮血の滝。
「何故裏切った!何故だァ…!!」
「み…つ、な……り」
『そう泣くな』
笑顔は噎せ返るほどに憎かった
目が覚めると見慣れた天井が視界に入ってきた。額には嫌な汗が滲み髪が張り付く。
体を起こし肩に触れればツキリとした現実的な痛み。
"葬ったのか…"
とうとう果たしたのか、そう思うと敬愛した主君への敵が討てたことに満たされ失った何かに空しくなった。
"失う…?何を…だ?"
細い糸が絡まるようにぐちゃぐちゃと、起こったことが頭の中で交差し掻き回されこんがらがる。
ぎぃ…ん、と頭に頭痛が走る。
「…ッ……そう、だ
刑部っ…は」
あんな大きな戦の中、あの友は無事だろうか?フラリと立ち上がってズキンとまた頭痛がした。ぐらり傾いた体は三成の体温に反比例した温かさに包まれ受け止められた。
「どうした三成?!まさか病でも患っているのか?!!それとも傷が痛むのか?!
とにかくまだ寝ていろ!」
「いえ…やす……?」
名を呼ぶと微笑みを返された。酷く悲し気なもので胸の奥に突っ掛かる。
三成を布団に寝かせ家康は三成の隣に座する。することもなく珍しく大人しい家康をまじまじと見ていると腹に包帯を巻かれた大きな傷に気付き目を大きく見開いた。
「それは…どうした?!」
「ぇ?いや…どう、したと言われても……」
「そうだ刑部は!」
「あぁあいつなら大丈夫だ」
「他の…真田や、長曾我部や、毛利は」
「元親ッ…長曾我部は毛利に裏切りにあったらしいが気にするなと
真田は伊達と刃を交えて満足していたよ」
「そうか…」
裏切りの言葉に何かが刺さった。