戦国BASARA

□インターホンが地獄門
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町によって路地の形や家の雰囲気、住む人の感じは違う。それを一番感じられるのは営業の人間か宅配業者だろう。
政宗はこの仕事について一年経つか経たないか、だがそれなりに慣れて明らかに堅気ではない人が家から出てきても驚かない程度になっていた。運んだ荷物の中身が何なのかなんて考えたらいけない、宅配は運ぶだけが仕事。それ以上の詮索は不要だ。
いつものように住所を確認しながらトラックを運転して、小綺麗なマンションの前に駐車すると車を出る前に帽子を深くかぶり直す。子供の頃に病気で右目を摘出し、それ以来眼帯生活となっているのだがそれを物珍しげに見られるのが嫌で仕方がなかった。故に帽子をかぶりなるべく見えないようにしている。
改めてトラックから出ると荷物を確認した。

"片倉小十郎様で荷物は……"

「Ah これか」

見知った通販サイトの箱、小さめのそれを抱えてマンションに入った。最近のマンションというのは玄関口からセキュリティがしっかりとしていて、住人が操作しなければ部外者は入れないようになっている。
住所を確認して郵便受けの方も確認するとモニターに部屋番号を入力する。再度確認して呼び出しのボタンを押すと暫くの静寂の後に「はい…」とかなり低い声。

「石田郵便の者ですが、お荷物をお届けに」

『あ…あぁ……』

若干切羽詰まっているような返答の後に外部を遮断していた扉が開く。

ピーンポーン……

無言にインターホンを鳴らすと数秒の沈黙の後にガチャリと鍵の開く音が聞こえて目の前の扉が開いた。出てきたのは左頬に傷のあるいかにもヤクザな男だった。

"Wha-o こりゃさっさと済ませた方がいいな"

「ご利用有難う御座います、石田郵便です
こちらにサインか判子お願いします」

荷物を下敷きに領収書を男に向けた政宗だったが男は一向に動こうとはしない。なにやら政宗を見て硬直しているようにも見えなくもないが…

「…あの、判子……」

「うわああああああああっ!!!!!」

「うおおおっ?!
っていきなり何ッ
Noooooooッ!!!!!

最初の叫び声こそ男に釣られて出たものだったが、次の叫びは男の手の内にある装備品が政宗に向けられたのが原因だった。
男の手に握られているもの、それはまごうことなき包丁の柄だ。包丁の刃自体も相当手入れされているのか此方に向けられた切っ先がキラリと鋭く光る。よく切れる証拠だ。
もうここで叫ばなければどこで叫べばいいのかもわからないような状況にお互い叫び合い、先にハッとした男が政宗の腕を掴むとサッと家の中に引き入れて扉を閉めた。オートロック式なのか後ろでカチャリと音がして、状況を悟った政宗は命の危機とばかりに逃げようとする、が、

「ったく…油断も隙もありゃしねぇ……
丁度いい、ここで会ったのも何かの縁だ
奴を始末すんのを手伝ってくれねぇか」

くれねぇかっ…てか、手伝う以外に選択肢が存在するのだろうか。存在していたとしても昇天とかGo to 天界とかろくでもないものだろう。
男の手には未だ包丁。
荷物はその辺に置けと言われて玄関のマットの上に置いておいた。
言われるままに靴を脱ぐと後ろに続く男に急かされ廊下を右に曲がった所にある扉を開けろと言われる。

「この奥にいるんだが…
頼んだぞ」

「えーっと…"奴"って」

「さっきてめぇの後ろにいただろ…あいつだ」

「は…Ha?!後ろ?!」

「いいから早く行ってくれ」

包丁を持っていない方の手で背を押され、政宗は心臓を押さえながら恐る恐る扉を開けた。
男の話や様子、容姿からしても相手がどれだけ危険なのかが伺える。下手をすればバキュゥゥゥゥッンなんて殺されるかもしれない。

「……てか、素手でっすか」

「てめぇなら問題ねぇだろう」

さらっと言い切るヤクザ。ああもういい、ヤクザだ。だって頬の傷といいどう考えたって現実逃避したって堅気には見えない。この人が堅気であれば世界経済が全てひっくり返るだろう。
一度止めた腕をまた動かす。今度こそそれこそ死ぬ気で。

キィィ・・・

「……?
誰もいないみたいっすけど」

扉の先には意外にも普通の部屋が広がっていた。日当たりの良い明るめの部屋だ。ほこり一つ落ちておらず、ダイニングテーブルには開きっぱなしの本と飲みかけのコーヒーが置かれていた。
一つ気になるのは住まう男に似つかわしくない携帯ゲーム機がソファに転がっていることだろうか。しかも緑。

「その、ソファの影か」

「・・いません」

「ならテレビの後ろは」

「Haaッ?!」

「ッなんだ!!いきなり大声出すんじゃねぇっ!!」

テレビの後ろとはまた細々としたところを指図するものだ。ここで漸く政宗は何かがおかしいことに気付いた。
男の怖がり方からして相当恐ろしい物なのだろうが・・はたして"それ"は"人間"なのだろうか?普通人間がソファの影やテレビの後ろに隠れ切ることができるだろうか?子供でもなければ至難の技だ。
何より玄関前のあの通路。道が狭い上に後ろは塀。下を見れば6階の高さだ。外の道にしたって木々がうまく影になって見えないようになっている。
この男の言う"奴"がいたとしたら、

"塀の上に乗っていられる人間なんて聞いたことねぇ"

恐怖心が解け、落ち着いてテレビの方へと向かう政宗。そこに"奴"の正体はあった。

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