戦国BASARA

□目を覚ましてよ、と
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主が死んだ忍は死んだも同じだ

ヒュンッ ザッ

「あ゛ッ…ガッ!!」

ドサリッ

山賊が身体を地に伏す
それを見下ろす佐助の目はあまりにも空虚で目の前の屍すら見えてはいないように見えた
あの日、幸村が死んで
佐助は自害を選んだ
だが首に自ら苦無を突き立てようともその手は動かない

"そういえば…死ぬなって言われてたっけ……"

生前に幸村に言われた言葉
忍は主のために死ぬものだと言っても聞かない幸村はとうとう『命令』という言葉を持ち出した
こうなると佐助は幸村に逆らうことは出来ない
渋々了承した

"死んでも尚、主の命令を忠実に……ふっ"

「俺様にこんな忠誠心があったなんてねぇ……」
自嘲気味に顔を歪めて前を見据え、まだ攻めてくる敵を総て引き裂いた
痛みに叫ぶそいつらをさらに刻んで
「旦那の痛みはこんなもんじゃない…それくらいで痛いだなんて
まだ、殺してやるものか」
ただもうそれに苛々して斬って斬って斬って
気付いたら視界は赤かった
腕に抱える大切な人は冷たかった
周りに生きた人間は一人もいなかった
そんな惨劇の場に出くわしたのが通りすがりに加勢に入っていた伊達軍率いる伊達政宗だった
「アンタ…まさかこれ全部一人で………真田?」
「……独…が、ん…」
「but、嘘だろ…ッ?!!」
「………てくれ」
「Ha?
アンタ何言って」
「この人がいない世界でなんて俺は生きられない
俺はこの人に言われてて死ねないんだ
だから、俺様と本気で戦って殺してくれ
アンタなら出来るはずだ………殺してくれ、頼むから
なぁっ!!!殺してくれよぉぉぉ!!!!
あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ッ!!!」
発狂した佐助は幸村を強く抱き締めて政宗に殺してくれと乞う
だが、政宗はそれを受けなかった
「…真田が生きろって言うなら生きろ」
「生きる意味なんてもうない!アンタにだってわかるだろッ?!!
なのに何でだよ!!?」
「真田がアンタに生きろと命じたからだ
OK、そういうことなら俺のところに来な」
「………行くと思ってんの」
「さぁな
三日待つ、その間に決めろ
よく考えな
真田がアンタに野垂れ死んでほしいのか
それとも」
「………」
無言に俯いた顔をあげると、腕に動かない幸村を抱いたまま佐助はその場から消えた
跡に残ったのは大量の屍と禍々しい臭気だけ
それから何日かが経ち、佐助は政宗に言われて奥州周辺の山に出る山賊を手当たり次第に斬り倒している
ということは、そういうことだ
佐助は生きることを選んだ
「そっちはもう終わったか」
「……」
こくり
同行していた小十郎に合図ちを打って刀についた血を払う
あれから大型手裏剣は使っていない
最初は使っていたのだが、使うたびにあの日を思い出して戦力外となり
使えないでもない刀に変えたのだった
「大丈夫か?」
「…」
「猿飛?」
「…ぇ…何?」
「大丈夫か?具合が悪いなら無理はするな
てめぇのためだけでもねぇ
こっちにも迷惑がかかる」
「そう…ですね
じゃあ、先に帰らせて頂きますよ」
なるべく軟らかく答えて佐助はその場から消えようとした
「おい、」
「何?」
「また滑るつもりか」
「あ…あぁ……
そっか」
自分が忍装束ではなく、適当に陣羽織を羽織ってきたことに気付く
つい先日にも気付かずに木から木へ飛びうつり端が木に引っ掛かって滑って落ちた
何故陣羽織なのかと言えば、ただ単に
あの忍装束が真田軍からの支給品だったから
もう無いならば別に見繕うしかない
「馬乗ってきたんだっけ…?」
「疑問を持つな」
馬なんてものはあまり使わない、故に存在を忘れていた
それに乗って帰ったが
やることもなく割り当てられた部屋でボーッとしている
こんな状態が伊達軍に来てからずっと続いていた
流石に見かねた政宗が部屋に足を運んで話を聞いてみたりもしたのだが…
「Ah?この伊達政宗が直々に来てやってんだぜ?
気持ちはわからなくもねぇが少しは覇気出しやがれ」
「覇気とか…元々俺様そんなじゃないし」
迷惑そうに、それでも政宗に身体ごと向けて話を聞いている
「アンタそれで真田がッ…!!……Sorry…」
「いいよ、もう
いつまでも引き摺ってちゃね…竜の旦那の言う通り
旦那も喜ばないよ」
目を反らす辺り、まだ切りはついていないのだろう
政宗は部が悪くなる
それで何と無く周りに目を回していると
「…………Ah?
何書いてんだ?」
「あぁこれ、新しい陣配図」
ひらりと見せてきた紙に目を通してみると、それは何処から攻められても心配のない強固な陣配図だった
「いつの間にこんなん書いてたんだ」
「昨日辺りかな
覚悟決めて伊達に入るなら、アンタを死なせるわけにはいかないから」
要は佐助なりの踏ん切りだった
中々切れきれてはいないが彼はこれでいいのだろう
政宗は含み笑いを溢すとその場から立ち上がって踵を返し、障子を開けた
「心配は無用ってことか」
「どうもご迷惑をかけまして」
「Ha!陣配なら小十郎に言ってみろ
あいつとアンタがいれば伊達は日の本一強固な陣配の軍になるんじゃねぇか?」
ニカリと笑ってやると佐助はやっと笑顔を見せてきた
「アンタもっと笑えよ」
「忍はそうそう笑わないよ」
「忍は退職したんじゃなかったのか?」
「勝手にやめさせないでくれます?」



END


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