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□タランテラ
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……僕が、
鍵盤をひとつ、鳴らすように、伊作は言葉を紡いでいく。
「患者さんを全員助けられるわけじゃ無いのは分かってるんだ、」
先週だったか、医学部生には実習の予定が入っていた。
理想と現実はやはり違うものなのか、コイツの顔色が段々悪くなっていったのを俺は知っている。
生と死が同居しているような場所だ。
時代は違えど、変わらない。
「たまにね、」
伊作が再び鍵盤に触れた。
狂ってしまうんじゃないかって思うんだ、
だけど、患者さんに感謝の言葉をもらったとき、僕はものすごい幸福なんだ
泣きじゃくりながら鍵盤を叩く伊作を、後でめいいっぱい甘やかしてやろうと、音の海に飲まれながら俺は目を閉じた。
甘く甘く、廻る毒は
踊る踊る、道化の足取りは
いつか途切れる
タ ラ ン テ ラ