TexT;ぬらり(不倫依存症)

□玉の緒
3ページ/4ページ

「竜二!」
魔魅流が腕を掴む、それすら欝陶しい。
「どうしたの、落ち着いて、ゆっくり」
何を言う、落ち着いてる、言おうとして言葉にならない。
過呼吸を起こしている、気付いても勢いが止まらない。

体ばかりが息苦しく、意識はとても冷静だった。
ここは魔魅流の部屋、帰宅しないと、でも長く歩けそうにない、タクシーを呼ぶか。
電話帳、どこにあったか、思い巡らせていると、魔魅流に抱きしめられた。

「落ち着いて、竜二、ごめん、」
泣きそうな声に、なんでお前が、と笑いたくなる。
泣きそうだったのはこっちだ、苦しいのも、お前の態度が悪いんだ。
八つ当たりと判っていながら、魔魅流を悪者にして気を反らせた。

痺れる手足に力は入らず、ぐったりと魔魅流に抱き留められ、胸で悪態をつきながら興奮を静めた。


「…竜二、病院行く?」
話せるようになると、魔魅流がおずおずと問い掛けた。
何も知らないから、発作でも起こしたように見えたのだろう。
「行かねえよ」
行ったところで、精神科の処置を受ける程度だ。
切り捨てると、魔魅流は悲しげな顔になった。

「もう大丈夫だ、安心しろ」
背をぽんぽんと叩き、なんとか笑顔を作ってやると、魔魅流は安堵したようだ。
「よかった…、びっくりした」
深い息をつき、ぎゅうと抱きしめられ、暑苦しさと申し訳なさがこみあげる。
体は汗まみれで、息もまだ上がっているが、抱き留める腕は心地よかった。


この夜だけは、何も考えたくない。
ひたすら疲れて、泥のように眠ってしまいたい。
重荷は軽くならなくとも、一時でいい、忘れさせてくれるなら、なんでもよかった。

「ええよ、僕で」
言ったのは秀元だった。
「穴埋めでええ、身代わりで構わんから、僕にしよ」
「竜二のこと、きっと大切にするから」
「だから、一人で泣くんやないで」


魔魅流の腕に抱かれながら、はじめて竜二は秀元を恋しく思った。





あとがき
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ