TexT;ぬらり(その他)

□木曜のフール
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或る年の4月1日。木曜日。
「ゆら、いいこと教えてやろうか」
「いらんわ」
兄が機嫌良く話しかけてきたのを、断った。
多分ロクなことじゃない。


「へえ…そうか、じゃあお前には教えてやんねえ。さっき速報で流れてたんだが」
思わせぶりなセリフを残して、意外なほど素直に竜二は立ち去った。
「……え」
あっさり引かれると、却って気になる。
が、今更教えてと縋るのも恥ずかしい。
頭を振って、くすぶる気持ちを追い出した。

廊下を歩いていると、
「魔魅流、いいこと教えてやろうか」
あの声が耳に届いた。
魔魅流はきっと断らない、思わずゆらは物陰に隠れ、聞き耳を立ててしまった。

「あのな魔魅流。古墳って知ってるか」
「…むかしの偉い人の、お墓」
「正解だ。さまざまな形状があるが、最も有名なのは前方後円墳というものだ…わかるか?」
「わからない」
「前が四角い形で、後ろは円形に土が盛り上がってる。この、丸いところが問題なんだ。さっきニュースの速報で流れたんだがな」
物陰で、ゆらは身を乗り出す。

「甲子園って知ってるか、魔魅流」
「…野球するとこ」
「正解だ」
なんで話が飛ぶん?
物陰のゆらは歯噛みする。
「甲子園は……古墳なんだってよ」
なんでやねん!
ゆらは危うく大声を出しかけた。
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