TexT;ぬらり(その他)

□梅雨前線停滞中
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雨が降り続く毎日。
それでも、負けないほどの熱気を生む話題に、巷は席巻されていた。

「なー竜二ー」
「こっち来んな」
しっしっ、と本を片手に手を振った竜二は心底厭そうだった。


「何やねん、ご先祖さま邪険にしたらバチが当たるで」
けらけらと笑って間合いを詰め、竜二が怯んだ隙に手の中の本を取り上げた。
「…あ!」

さて、と眺めた本の題名は"よくわかるサッカー入門"。
「…………」
「……返せよ!」
無言の秀元の手から、竜二は本を奪い返す。

「…竜二…すまんなあ」
「は?」
秀元はいきなり目頭を押さえ、竜二は当惑する。


「アレやろ、ワールドカップゆう奴が観たいけどルール判らへんのやろ。そんでわざわざ本買うてきて、皆の話題に混ざりたい思うたんやな!」
思えば竜二はこんなちっさい頃から、今もちっさいけど、ずっと修業漬けやったもんなあ、若者向けの話題に着いていかれへんのやなあ。
でも自分で調べる姿勢は偉いで、わからんことはボクにも聞き、日本の先発メンバーのことくらいは教えたるからな。

「でもな…昨夜パラグアイ戦、PKで負けて、日本はベスト16止まりやねん!」
拳を握って叫ぶ秀元に、竜二は無表情でローキックをかました。
俗にいう、弁慶の泣き所。

「痛い!」
「うるっせえよジジイ」
睨む竜二が、夜中大声で叫んだのはてめえか、と続ける。
「いやいや、ボクだけちゃうで?ゆらちゃんとかな」
「否定しろよ」


「ごちゃごちゃ言ってたのは見逃してやるが、いいか、この本は魔魅流のだ」
本を振り立てて諭す口調の竜二に、秀元はにっこり笑う。
「うん、知ってるで」
「は?」

「こないだ魔魅流君に約束しとったやん、教えたるって」
「ああ…?…って待て!テメエいなかっただろ、そん時」
「そやった?あー、閨での話やったかいなー」
「閨いうな!ついでに聞き耳立ててんじゃねえ!」
「人聞きの悪い、聞き耳やないで、見てたしな」
「よけい悪いわ!!」


その後しばらく、竜二の部屋には何かの札が貼られていた。
魔魅流は遅まきながら、サッカーのルールを学んでいるらしい。





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