TexT;ぬらり(その他)

□いつか星になる日まで
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七夕、年にいちどの逢瀬。
笹飾り、短冊、願いごと。
日本で子供時代を過ごした者なら、たいてい知っている。もはや常識。


「これ何?」
「………」
通りすがりに声をかけられた。
その言葉を発したのが、(いつもの)魔魅流ではなく式神だったことに、竜二はしばし呆気にとられる。

「何?」
「…何って、笹飾りだろ、七夕の」
知らないのか?と幾分かの侮蔑も込めて答える。
「ボクの生前には、見てへんわ。ふうん、キレイなもんやなあ」
素直に感嘆する秀元はなんとなく珍しく、竜二は立ち去るきっかけを逃す。

「生前見なくても、何回も呼び出されたりしたんだろーが」
「ボクが呼ばれるのは、いつも非常事態や。術者のレベルでも、居られる時間は違うしな」
静かに話す秀元に、いつもの皮肉げな面影はない。
いっそこのまま消えそうな、存在が薄れそうな気がして、竜二は思わず男の袂を掴んだ。

「何や、竜二」
笑みを含んだ眼差しを向けられ、また反射的に手を離す。
「…なんでもない」
笹に向き直ると、くすくすと笑う声が耳に入る。
「笑うな…っ」

振り向きざま、つよい力で抱き寄せられ、竜二は秀元の腕の中にいた。
「秀元っ…」
「竜二、」
抗議の声は、静かな声に断たれた。

「竜二、ごめんな」
「竜二のこと好きやけど、ずっと傍には居られへん」
「ごめんな」

耳元に落ちる声に黙った竜二は、そのまま拳を固め、相手の脇腹を殴りつけた。
「…あ痛!何すんねん竜二!」
「てめーが、辛気くせえことばっか言うからだ」

「謝るくらいなら、最初から手ェ出すんじゃねえ。出すなら責任取れ」
「あのなあ…」
「どうせなら、年にいちどは逢いに来るとか言ってみやがれっつーんだ、ジジイ」
早口に吐き捨てると、秀元の口端がゆっくりと吊り上がる。

「はー、もうほんまカワイイわ、竜二は」
「うぜえ黙れ」
「離したなくなるやん、本気にするで」
「できねえんだろ、ホントは」
「誰に言うてんの、天才陰陽師やで、ボクは」
天の川越えて逢いに来るで、雨降っててもな。


「…お前、やっぱ七夕知ってんじゃねーか!」
「七夕知らんとか、誰も言うてないで?笹が珍しいから、聞いただけやん」
竜二はもうちょい、言葉に気ィつけなあかんでー、と笑われて、今度は本気で殴りつけた。…かわされた。

「避けんな!」
「そらムリな注文やなー。あ、そや竜二、死ぬ時はボクがお迎えに来たるからな、楽しみにしててな」
「当分ねーよ!!」
こんな奴に迎えになぞ来られたら、おちおち死んでもいられない。
それだけは避けよう、と竜二は堅く心に誓った。





あとがき
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