TexT;ぬらり(その他)

□やさしい口づけ
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昔から、リクオは夜になって妖怪の姿になると、自分でも驚くほど大胆に振る舞えるのだった。

「それで、アンタに会いに来た」
「意味がわからん」
渋面を作る男を見て、笑顔になれる自分は、確かに図々しいとは思う。頭の片隅で。


夏の夜、暑くて寝るには不向きなほどの一夜、リクオは陰陽師の総本山に赴いた。
誰にも見咎められず、屋敷の奥まで辿り着くのは、いつものこと。
それを発見した男に、凶悪なまでの渋面をされるのも、いつものこと。

「滅されに来たか、妖怪」
「生憎まだ未練があってね。リクオって呼んでくれ」
「そんな義理はねえよ」
他愛ない、いつもの軽口を叩いて、相手の座す縁側に向かう。

「オレがいないからって、寂しくて泣いてないか?」
「誰がだ、ボケ」
「オレは寂しかったよ、会えなくて」
「てめえのことなんざ忘れた」
白々と言い切った竜二は、そこでまじまじとリクオの顔を眺めた。

「…なに、男前に惚れ直した?」
「いや、そんな顔だったかと思ってな。忘れてた」
「ひでえな」
笑い声を上げて、リクオは間を詰める。

「近いだろ、滅するぞ」
剣呑な言葉とは裏腹に、竜二は動こうとしない。
「忘れたなら、思い出させてやろうかと」
言いながら、リクオの手が竜二の頬に触れる。
「アンタの好きな所、覚えてるぜ」


一度、二度、唇が触れ合ったあと、舌が絡まった。
息つぎの合間を惜しむように離れない舌、伝う唾液。
深い口づけの隙間、液体が走ったのは一瞬だった。
「?!」

がば、と身を離したリクオの口から何かが漏れ、がくりと膝を地についた。
「アンタ…、何を…っ」
がふぃ、と呻きを零すリクオを満足げに眺める竜二。

「いつもいつも、テメエの思い通りになると思うな、妖怪」
「幸い毒じゃねえ、体液が乱れて苦しいだけだ、安心しな」
「けどまあ、後少しで抜いてやるよ、リクオ」

咳き込むリクオの背を撫でた手はひどく優しく、竜二は目を細めて口づけた。





あとがき
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