TexT;ぬらり(その他)

□その夜、路上で
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からん、ころん、
夜に響く、下駄の音。
「よう」
掛けられた声に横を見れば、そこには見知った妖怪が笑っていた。

「てめえ、イキナリ人の横に立つなって言ってんだろ」
嘆息して、竜二は反射的に竹筒を掴んだ手を離す。
「イキナリじゃねえよ、けど認知されない妖だからしょうがない」
笑うリクオは夜の姿、切れ長の目で覗きこむ。

「アンタを見つけたら、我慢できなくてさ」
「ガキ」
切り捨てる竜二の顔は穏やかで、竹筒に手は触れないまま。
「子供扱いすんなよ」
膨れた頬に笑ってやって、竜二は指で頬を突いた。

「子供扱いなんざしねーよ、立派な妖怪だ、滅してもいい」
言いながら指は頬をつつき、時折唇に触れる。
夜とはいえ、ここは路上、いつ人目に触れるかわからない。
およそ人前では見せない竜二の悪戯に、リクオは戸惑いながらも嬉しさを隠せない。

竜二でも、妖相手に可愛い素振りをみせることがある。

そんなことが妖怪仲間に知れたら、たくさんの者が竜二を欲しがって困る、リクオはそんな風に思い込んでいた。
人前で披露されるとマズイけど、こうやってふたりきり、可愛い仕草を見せてくれるならいい。ちょっとオープンに。

(可愛いなあ、アンタ)
思ったと同時、体が動いて軽く口づけていた。

「な…っにすんだ、テメエ!」
一瞬で飛びのいた竜二の頬が赤く染まって、今度はリクオがどんな悪戯を仕掛けるか、考える番だった。





あとがき
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