TexT;ぬらり(その他)

□逢魔が時
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それは、怖いくらいに美しい、茜色の空の下。

「花開院さんの、お兄さん」
声が聞こえて庭を見れば、眼鏡をかけた童顔の中学生。
「テメエか、妖怪」
こんな所にまで入り込みやがって、と眉間にシワを刻む。
「嫌だな、妖怪じゃないよ。…今は」
笑う子供が、信用ならないことを竜二は知っている。


「ゆらはここじゃねえぞ」
さっさと追い払いたくて、簡潔に教えてやると、彼は首をかしげた。
「…ああ、花開院さんに用はないんだ」
「なら他所に行け」
わざわざ顔を見せるなんて、嫌がらせか。
竜二の渋面が濃くなる。

「違うよ、花開院さんじゃなくて、お兄さんに」
「観念して滅されに来たか」
竹筒を示してやれば、待って待って、と慌てて手を振る。
そんな姿は、歳相応に見える。
「もう、短絡的なんだから、竜二は」
「…今なんつった」

低い声音にさらに慌てて、ごめんなさい、とリクオはぴょこんと頭を下げる。
「短絡的、は言い過ぎました」
「ソコじゃねえ!」
年上捕まえて呼び捨てとは何事だ、と言ってやると、ようやく気付いたようだ。
「ごめんなさい、竜二さん」
素直に言い直す。

「で、何しに来た、本当のところ」
「竜二さんに会いに」
「滅していいか」
にこにこと人懐こく笑う、子供の眼鏡に夕焼けの残滓が反射する。
「嫌だな、人間だって言ったでしょ」
子供の形から漏れる妖気。

それは茜色の空の下、
逢魔が時。


「竜二が欲しいんだ」
ちょうだい?

首をかしげる子供は中学生の姿。
笑う子供が、信用ならないことを竜二は知っている。




あとがき
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