TexT;ぬらり(その他)

□お化けかぼちゃに栗一粒
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砂糖を煮詰める甘い匂いが、家じゅうに漂った翌日。
おやつの時間を、竜二はそれは楽しみにしていた。

いいですか、これは竜二さんだけですからね、お代わりはありませんよ。
毎年のように勿体ぶって供された小皿の中を見て、魔魅流は首をかしげた。
「…なに、それ」
茶色い小粒が2つ。
「お前、知らねえの?」
驚いたような小馬鹿にしたような(たぶん両方だ)声をあげて、竜二は些か胸を張る。
「これはな、魔魅流、栗の渋皮煮だ」

栗の鬼皮を剥き、あくを抜き、砂糖と少しの酸味で煮詰めた甘い粒。
「正月までの保存食だからな、出来立てを食べるのは俺だけなんだよ」
自慢げに話すが、単に好物なんだと魔魅流は了解した(そしてそれは、間違ってはいない)。

いつもより上機嫌な竜二を見て、魔魅流も渋皮煮に興味が沸いてくる。
魔魅流の前には、栗饅頭。
「…竜二、替えっこしない?栗、いっこだけでいいから」
「ああ?」
不機嫌な声をあげた竜二が、しばらく考えてにやりと笑った。
「お前、渋皮煮が羨ましいんだ?」
優越感をくすぐられたらしい。
素直に頷いた魔魅流に、
「どうしてもってんなら、しょうがねーなー」
わざと澄まして、栗の粒を一つ置く。
魔魅流の栗饅頭は、さっさと竜二の口に消えた。

どきどきしながら食べた渋皮煮は甘ったるくて、魔魅流は少し落胆した。
「美味しいだろ?」
得意げに覗き込む竜二に、頷きはしたものの、正直竜二ほど好きになれない、とは思った。
そんな魔魅流は意に介さず、竜二が残り一粒を食べようとすると…

部屋の襖が、すぱあん、と開けられた。
「Trick or Treat!」
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