TexT;ぬらり(その他)

□狼なんか怖くない
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「ねえお兄さん、本貸して」
「…どこから入りやがった」
自室の扉が簡単に開き、覗いた顔に竜二の機嫌は急降下する。
「この、妖怪」

「妖怪じゃないって言ったでしょ、昼は」
愛想よくかしこまる中学生、見た目は人畜無害でも中身は別物だと竜二は知っている。
油断ならない、そういう意味では魔魅流に通じるものがある。
たぶん双方、不満だろうが。

「竜二さんのオススメな本、教えてよ」
「アホか」
「えー?!」

「ウチは妖怪退治のプロ、陰陽師の総本山だ。妖怪に読ませる本などねぇよ」
「えー…花開院さんが、竜二さんは本好きだって言ってたから、いい案だと思ったんだけどなー」
「テメエが妖怪どもの特長や弱点を解説するなら、聞いてやる」
「…う」
詰まったリクオを見て、竜二は笑う。
それは意外と子供っぽく、リクオの目が奪われる。

「急にそんな顔するの、反則」
「…あ?」
怪訝な顔になった年上の陰陽師に近づいて、間合いを詰めて、警戒される前に。

唇にひとつ、キスを。

「…っにすんだテメエ!」
「えっと、キス?」
「じゃねえよ、何のつもりだ!」
竹筒を素早く掲げた動きに実は感服しながら、安全な間合いを取って。

「すきだよ、竜二」
早くボクのモノになっちゃえばいいのに、願いはそっとしまって。
ホントは抱きしめたい、もっとキスしたい、触りたい。可愛い顔が見たい。
けれどそれはまだ、お楽しみ。

「滅!」
呪と同時に飛んできた式神をひらりとかわし、リクオは手を振る。
「じゃあまたね、竜二。今度はもっとキスしよ、気持ちよくしてあげるねー」
「黙れ!」
大声をあげた竜二がまた竹筒を取り出すのを見て、リクオは身軽に敷地を脱出した。
睨む竜二の頬が赤かったかは、誰も知らない。





あとがき
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