TexT;ぬらり(その他)

□君を呼ぶ声
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名を呼んだ。
「竜二」

名を呼ばれた。
「奴良リクオ」

それは当たり前に、ごく自然に零れ落ち、互いに何も言わず受け入れた。
まるで昔からの習いのように、まるで旧くからの馴染みのように。

あれ、そういえば、と思ったのは後のことで、意識した瞬間、熱が上がったような気がした。
竜二の名を、面と向かって口にした。
嫌がらず受け入れてくれた。
自分の名を、知っていてくれた。

それは非常時ゆえの奇跡だったかもしれないけど、確かに存在した瞬間。

「…もしかして、嬉しいかも…」
人に名を呼ばれて、こんなにどきどきするなんて。
知っていてくれて、口にしてくれて、それだけで体温が上がるなんてこと、はじめて知った。

「りゅうじ」
こっそり口にしてみる。
思ったより甘く響いた言葉に、応えてくれる人はいないけど、あの声が耳の底に響いて、リクオはまた嬉しくなる。
年上の黒髪の人が、自分を呼ぶ声は存外優しかった。
そんな無防備に甘やかして、調子に乗っちゃっても、しらないからね。


次に会った時は、何て呼んでみようか。
ひとり悩むのも、とても楽しい、そんなこともはじめて知った。





あとがき
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